■社会現象も巻き起こしたギャグ漫画から一変…『ヒミズ』

 青年ギャグ漫画で平成時代を一世風靡した作品といえば、古谷実氏の『行け!稲中卓球部』がある。通称“稲中”は卓球部に在籍する中学生が織りなすドタバタギャグ漫画だ。ギャグ満載の本作は平成時代にブームを起こし、コミック発行部数は2500万部を突破した。

 本作でデビューした古谷氏だが、2001年から『週刊ヤングマガジン』(講談社)で『ヒミズ』を連載。“稲中”と真逆ともいえるサスペンスホラーな内容が話題となった。

 ヒミズの主人公は虐待と貧困のなかで育った中学3年生の住田祐一。母子家庭で育った祐一は、ある日母親も蒸発し一人で生活せざるを得なくなる。彼を心配する女生徒の景子はできるだけ生活をサポートするが、祐一はある事件をきっかけにさらなる破滅への道へと進む……という物語だ。

『ヒミズ』には恐ろしく目をそむけたくなるようなシーンも登場するが、それは漫画だけでなく映画も同じだ。2012年に公開された主演・染谷将太さん、二階堂ふみさんによる実写化映画では、壮絶なシーンも全力で演じる2人の演技が話題となり、第68回ベネチア国際映画祭でマルチェロ・マストロヤンニ賞を受賞している。あまりにも不条理で絶望が続く展開なのに、最後まで目が離せない魅力ある作品だ。

 

 ホラー漫画に読み慣れていると、“次はたぶんこんな展開だ”と予想ができてしまうこともある。しかし普段ギャグ漫画を描く作者のホラー作品は、どんな展開になるかなかなか予想ができない。しかも普段の作品における面白さのギャップも相まって、さらに恐ろしく感じるのだ。

 ぜひこの機会にギャグ漫画家が描く背筋の凍るようなホラー作品を読んで、刺激をもらうのもおススメである。

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