望月峯太郎『座敷女』、古谷実『ヒミズ』も…ギャグ漫画家たちが描いた“あまりにもホラーな物語”の画像
講談社プラチナコミックス『座敷女』(講談社)

 “恐怖と笑いは表裏一体”そんな言葉を聞いたことはないだろうか。普段は笑うことが好きな人でも、たまたま目に入ったホラーから目が離せなくなることもあるだろう。笑いも恐怖も、人間にとっては欠かせない感情なのだ。

 漫画家のなかにはお笑い系の漫画が代表作でありながら、とんでもないホラー系の恐怖作品を生み出した人もいる。今回は笑いの天才とも言えるギャグ漫画家が描いた、恐ろしいホラー作品を3つ紹介したい。

■水泳に夢中になる熱血青年から一転…恐怖のストーカー女を世に知らしめた『座敷女』

 望月峯太郎(現:望月ミネタロウ)氏は『バタアシ金魚』(『週刊ヤングマガジン』)、『お茶の間』(『ミスターマガジン』(いずれも講談社))というコメディ作品ののちに、背筋も凍るようなホラー作品『座敷女』を手掛けている。

『バタアシ金魚』は水泳をテーマにした青春群像劇だ。主人公の男子高校生・薫が水泳部の苑子に一目ぼれをし、何度もアタックする様子がコミカルに描かれている。その続編にあたる『お茶の間』は、社会人になった2人に待ち受ける試練や生活が同じくコメディタッチで描かれており、ドラマ化もされ人気を博した。

 しかし、1993年に『週刊ヤングマガジン』(講談社)で連載された『座敷女』は、そんなハートフルな雰囲気を一蹴したホラー作品だった。

 主人公の大学生・森ひろしは、真夜中にアパートの隣人のドアを叩き続ける気味の悪い大柄の女に遭遇する。その日からひろしはその女に付きまとわれ、やがて恐怖が待ち受ける……という内容だ。

 本作は元祖ストーカーの恐怖をテーマにした作品としても知られているが、理不尽なつきまとい、過去に犯した過ちとの関係、普段の生活を脅かされる恐怖などが緻密に描写されており、自分がこんな目に遭ったらどうしよう……と恐怖心を掻き立てられる。

 作中では背筋がゾクゾクするようなシーンがいたるところで登場する。なかでも最終ページに描かれていた「END?」は、まるで“この続きは現実社会でも続くよ”という予告のようで、一番ゾッとした。

■ところどころにギャグのスパイスがあるのも魅力『シタバシリ』

 1999年から『月刊少年ジャンプ』(集英社)で連載がはじまった『ギャグマンガ日和』で知られる増田こうすけ氏は、2018年、集英社の月刊漫画雑誌『ジャンプSQ.』で『シタバシリ』というホラーマンガの原作を担当している。

 作画を担当した池田晃久(現:紗池晃久)氏は、増田氏による本作の台本を見たときは恐怖で冷や汗が出たと明かしており、“まさにホラーとギャグは紙一重だ”と述べている。

『シタバシリ』のあらすじはこうだ。ある日、主人公・男子高校生の直哉は父の舌が異常に長く伸びることを知る。それをきっかけに、自分や妹の舌も長く伸びることが発覚。家族の生い立ちに秘密があると思った直哉と妹は田舎にある父の実家に行き、「舌にまつわる言い伝え」があることを祖母から聞くこととなる。

 池田(紗池)氏の繊細な画力も相まって、キャラクターたちの舌が長く伸びるシーンはひどく奇妙で気持ち悪い。また、物語が進むにつれて直哉たちに襲いかかる出来事も恐ろしく、迫力のあるホラー作品になっている。

 ただし、ただ恐ろしいだけではなく『ギャグマンガ日和』のスパイスがところどころに入っているのも魅力だ。妹の舌が抜けてしまい追いかける展開では、直哉は突如フラれた彼女と海岸ではしゃぐ姿を妄想し「こんな時にオレはなにを」と我に返ったりもする。

 また、よく見ると恐怖シーンにもちょっと“ギャグっぽい物体”が混ざっていたりもして、各所にシュールな笑いが隠されていることにも注目だ。

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