2023年7月14日に公開された『君たちはどう生きるか』は、『風立ちぬ』以来実に10年ぶりに宮崎駿監督が手がけた長編作品だ。事前に宣伝を一切しないという“秘密主義”がかえって話題を呼び、いざ公開されると数多くのファンから「圧巻」「さすがの世界観」といった声が上がっていた。
また11月1日には愛知県にある「ジブリパーク」の新エリア「もののけの里」が開園され、2024年3月16日には「魔女の谷」の開園も控えるなど、ジブリ関連の話題は今年も来年も盛り上がりを見せてくれそうだ。
ご存知の通りジブリ作品は名作揃いで、何度観ても飽きないどころか、観るたび新たな発見がある。そこで今回は、2023年に当サイトに掲載した記事の中から、ジブリ作品をよりいっそう楽しむのに役立ちそうな2本を振り返りたい。
■『となりのトトロ』のポスターの“見知らぬ女の子”は誰?『風立ちぬ』や『崖の上のポニョ』にも…“知る人ぞ知る”スタジオジブリの裏話(2023年4月10日公開記事)
宮崎駿監督や高畑勲監督といった、世界に誇るアニメーションの巨匠たちが手がける『スタジオジブリ』の作品。世代を超えてファンから愛され続ける名作たちには、本編を見るだけではわからない“知る人ぞ知る”裏話が存在する。今回はあまり広くは知られてはいないが、ファンの間では周知されている裏話をご紹介しよう。
■『となりのトトロ』のポスターに描かれている女の子は誰?
1988年公開の『となりのトトロ』のポスターには、1人の女の子が描かれている。登場人物のサツキかメイじゃないの?と思うのが普通だと思うが、そうではない。
その女の子はオレンジ色のスカートに黄色のシャツというサツキのような服装をしているのだが、サツキよりも少し幼く見え、2つむすびにしている様子はメイに似ているようにも思える。
雨のなか傘を持って立ち、隣にトトロが立っている描写からも、バス停でトトロと出会う作中での名シーンを彷彿とさせるこのポスター。実はこの女の子については、制作スタッフ・木原浩勝氏の著書『ふたりのトトロ』(講談社)で言及されていた。
それによると、初回と第2稿まではサツキがトトロの隣に並んでいたのだが、第3稿ではサツキとメイではないこの女の子に変更されていたというのだ。なんでも、サツキとメイがトトロと並んでいることに疑問を感じていた宮崎監督は、2人のどちらでもない女の子を描くことにしたという。
木原氏は登場人物ではない女の子がポスターに描かれることは前代未聞だと感じたそうだが、結果的に上映されていた期間に女の子についての問い合わせはなかったというから驚きだ。
■『風立ちぬ』の効果音は人の声だった
2013年公開の『風立ちぬ』にも、知られざる逸話があった。それは、作中の効果音をすべて人の声で表現しているということだ。
2016年11月6日に行われた「新千歳空港国際アニメーション映画祭2016」でトークイベントのゲストとして登壇した笠松広司氏は、「宮崎さんから『効果音は全部人の口で表現してほしい』との要望があった」と明かしている。
笠松氏は宮崎監督のこの無理難題にとても手こずったようで、20分くらいのデモを披露した際、“これは無理だね”と言ってもらいたい気持ちがあったそうだ。しかし、それと同時にやってみたい気持ちもあったという。
結果的に彼の制作したデモは宮崎監督に高評価を受け、120分以上の長編の効果音を人の口から発する音だけで完成させることに成功した。
実は宮崎監督、2006年から三鷹の森ジブリ美術館で上映されている『やどさがし』でも、人の声による効果音に挑戦している。『やどさがし』のパンフレット内で宮崎監督は、さまざまな音が複雑に重なっている効果音を聞く人に伝えることの難しさについて語っていた。
さらに、この“人の声”を効果音に使うという案は、『風立ちぬ』以前から試されていた。宮崎監督は、1984年公開の『風の谷のナウシカ』で、作中に登場する巨大な蟲・王蟲の幼虫が発する効果音を伝達するのに苦戦したといい、このとき子どものころに描いた絵に自分自身の声で音楽や効果音をつけていたことを思い出し、はじめて人の声による効果音を試してみたという。
『風立ちぬ』の公開よりもおよそ30年も前から、“人の声による効果音”の可能性を感じていた宮崎監督。彼の持つ人並外れた感性と、ストイックさにはつくづく感服してしまう。そして同時に、宮崎監督の出す難題に果敢に挑んだスタッフの笠松氏の努力も讃えたい。