『週刊少年マガジン』(講談社)には、2度の“黄金期”が存在する。第1次は『巨人の星』(原作:梶原一騎さん、作画:川崎のぼるさん)『あしたのジョー』(原作:高森朝雄(梶原一騎)さん、作画:ちばてつやさん)などが連載されていた1960年代、第2次は『週刊少年ジャンプ』(集英社)の発行部数を抜いた1990年代後半~2000年代初期だ。
そして、第2次黄金期には当時の『マガジン』を代表する作品をいくつも世に送り出した、日本一の立役者と呼ぶべき人物が存在する。
その名は樹林伸(きばやししん)さん。『MMRマガジンミステリー調査班』(石垣ゆうきさん)の主人公・キバヤシのモデルになった名物編集者にして、原作者としても才能を発揮したスーパーマンである。今回は彼が手掛けた作品を紹介しながら、そのすさまじい実績を見ていこう。
■『GTO』に『金田一少年の事件簿』…編集としても原作としてもヒット作連発!
樹林さんは1987年に講談社に入社し『週刊少年マガジン』編集部に配属される。
「漫画家と一緒に物語を作る」そんな漫画編集者ならではの仕事に魅力を感じていた樹林さんは自らプロットを練るなど、担当の漫画家と二人三脚で作品を作り上げていった。
編集者としてとくに大きい仕事に、1996年に連載開始された熱血教師ストーリー『GTO』(藤沢とおるさん)が挙げられる。作者の藤沢さんを『マガジン』に招いたのも樹林さんというのだから驚きだ。
“天樹征丸”や“青樹佑夜”、“安童夕馬”などのペンネームで、原作者として参加した作品も多い。国民的人気を得た本格ミステリー漫画『金田一少年の事件簿』(原作・原案:天樹征丸さん=樹林さん/金成陽三郎さん、漫画:さとうふみやさん)にもかかわっている。
現代では珍しくない推理漫画だが、当時はまったくなかったようで、樹林さんは「なんで誰もやらないんだろう」と不思議に思っていたようだ。なお、連載中はトリックやプロット作りにとても苦労したらしく「これ(推理漫画)を週刊連載でやるのは狂気の沙汰だ」と後年に振り返っている。
『GTO』に『金田一少年の事件簿』は、どちらも第2次マガジン黄金期を力強く支えた名作だ。その両方をプロデュースした樹林さんは、間違いなく功労者だろう。
■『サイコメトラーEIJI』『奪還屋』…作品に登場する知識が濃密!
樹林さんが手掛ける作品の特徴に、SF、心理学、物理学など幅広い学問の知識が盛り込まれている点にある。
たとえば、サイコメトリー能力を持つ明日真映児が難事件に立ち向かう『サイコメトラーEIJI』(原作:安童夕馬さん=樹林さん、作画:朝基まさしさん)だ。
本作では映児が物や人から読み取った抽象的な映像や思念を、美人刑事・志摩亮子がプロファイリングで読み解いていく描写がよく作りこまれている。当時流行した心理学をテーマにしたストーリーも多く、説得力のあるサスペンスが魅力だった。
また、架空の街・裏新宿を舞台にした異能力バトル漫画『Get Backers 奪還屋』(原作:青樹佑夜さん=樹林さん、作画:綾峰欄人さん)では、「ミッシングリンク」「カオス理論」など、SFやオカルトで頻繁に語られるワードがいくつも登場した。
聡明な頭脳を持つ主人公・美堂蛮がよく解説していたが、子ども心に「難しいけどなんかすごそう!」と圧倒された思い出がある。
どちらの作品も累計発行部数は1000万部を優に超えており、映像化もされた人気作だ。その面白さの根底には、樹林さんの広く深い知識があるのだと思う。