2000年代中期の『週刊少年ジャンプ』連載陣を振り返ってみると、今年20周年を迎えた空知英秋氏の『銀魂』、許斐剛氏の『テニスの王子様』、岸本斉史氏の『NARUTO-ナルト-』や久保帯人氏の『BLEACH』など15年以上にわたって連載された長期作品が多い。
人気の高さが連載期間の長さに繋がるのがこの「2000年代中期」のジャンプ漫画の特徴でもあるが、その一方で「短命」ながらも読者に強い印象を与えた作品も数えきれない。
1980〜1990年代だけでなく、2000年代中期もまた「黄金時代」と捉えても間違いはないほどの名作が生まれた。今回は、当時のジャンプを熟読していた筆者が、2000年代中期に「短命に終わったけど名作だった」漫画を振り返りたいと思う。
■『ニセコイ』前に描かれた…『ダブルアーツ』
まずは2008年より約半年の間連載され、コミックス全3巻が刊行された『ダブルアーツ』。2度のアニメ化も果たした学園ラブコメ『ニセコイ』の古味直志氏による初連載作品だ。
本作は未知の奇病「トロイ」に感染した心やさしき少女・エルー(エルレイン・フィガレット)の発作を収めるため、特殊体質を持つ少年・キリ(キリ・ルチル)と「手を繋ぎながら」旅をする物語。
自分の身を危険に晒しながらトロイに感染した人々を救い、自らも発症したエルーと、そんな彼女の発作を抑えるため四六時中手を繋ぐこととなったキリ。お風呂もトイレも男女が手を「繋いだまま」という少年漫画にありがちなウフフ展開だが、エルーの場合はまさに手を離すことは死と直結するシビアなもの。
ほぼ一般人であった2人が手をつないだままガゼルの暗殺者たちと戦う羽目になる中、一見不利な「手を繋ぐ」という行為が意外な戦法や状況を生み出すのが面白い展開だった。筆者は舞台設定やふたりで手を繋ぎ困難を乗り越えるところから、プレイステーション2用ソフト『ICO』を思い出した。
ただ、トロイという病気の在り方が分かりづらかったり、エルーとキリの2人で可能となるワルツをベースとした「双戦舞(ダブルアーツ)」や、初期のキリが使っていた「瞬時に何かを創り出す才能」など独創的な設定が生かし切れていない部分もあったように思う。
半年という短期連載であったため、キリの秘密やさまざまな伏線が回収されずに終わった残念な作品でもあった。だが、本作の斬新な設定に惹かれた読者が多かったことが、後の『ニセコイ』の人気にも繋がっているのだろう。『ニセコイ』連載中に行われた人気投票企画では「エルー」が10位にランクインしており、短命ながら多くのファンから愛された作品だったことが分かる結果となった。
■中二心をくすぐるネーミングの数々!今なお評価の高い…『PSYREN-サイレン-』
続いては初連載作『みえるひと』に続き2008年1号から約3年連載された、岩代俊明氏による『PSYREN(※Rは左右反転)-サイレン-』。
高校1年生の少年・夜科アゲハが謎のテレホンカードにより“サイレン”世界に転移し、命がけの戦いに巻き込まれていくSFアクションで、コミックスは全16巻刊行されているため「短命」とは少し言い難い作品かもしれないが、同時代の他人気連載に埋もれてしまった隠れた名作のひとつだろう。
主人公が現代(2008年)の日本と荒廃した未来を行き来し、理由もわからず命がけのバトルに強制参加させられる展開。15年前の作品ながら、「異世界転移」や「デスゲーム」に、選択いかんで未来が変わる「やり直し(ループ)」など昨今の流行り要素がギュッと詰まっている。
登場人物の多くは特殊能力“PSI(サイ)”で戦うが、ネーミングがいずれも特徴的だった。
たとえば主人公・アゲハは、相手や周囲のPSIを飲み込む「暴王の月(メルゼズ・ドア)」をはじめとする"暴王"の名が付く技を使用。ヒロイン・雨宮桜子の所持する武器は「妖刀・心鬼紅骨(しんきべにほね)」。などなど、必殺技の性能やネーミングセンスが否応なく読者の“中二病”心をくすぐった。さらにサイレン世界の謎や荒廃した未来の原因究明、多彩な能力を駆使した戦略、ある意味で複雑な人間関係、壮大な物語は読み進めると引き込まれてしまう。
ただ登場人物が多すぎるためか主要キャラクターの活躍が減ってしまったのが難点。週刊連載で読むと間が空いて分かりづらかったり、終わらせ方はきれいなものの、最終戦があっさりし過ぎだった印象も否めない。2015年11号から51号まで連載された『カガミガミ』以降、岩代氏の本誌での連載はないが、新作を待つファンは多いだろう。