『りぼん』伝説のギャグ漫画家! 岡田あーみん『お父さんは心配症』笑えて泣ける名エピソードの画像
「特別展 りぼん」公式ビジュアル

『お父さんは心配症』は、1983年から少女漫画雑誌『りぼん』(集英社)に掲載された伝説的なギャグ漫画だ。著者の岡田あーみん氏さんは、当時「少女漫画界に咲くドクダミの花」と称され、80〜90年代の“りぼん黄金期”に強烈なインパクトを残した。

『お父さんは心配症』は、現在ならコンプライアンス違反に引っかかってしまうようなハチャメチャな展開が爆笑をさらった。しかし、本作にはちょっとホロリとさせられるようなストーリーも存在する。今回は『お父さんは心配症』からハートフルなエピソードを3選紹介したい。

■亡き妻への想いはどこへ? 再婚しそうなお父さんにやきもき「お父さん、初恋の想い出の巻」

 まずは『お父さんは心配症』第4話「お父さん、初恋の想い出の巻」を紹介したい。

 主人公・佐々木光太郎は妻に先立たれ、娘・典子を一人で育ててきた中年男。高校生になった典子は北野という彼氏ができ、それに嫉妬した光太郎は毎日北野に執拗な攻撃をしかける。

 そんなある日、光太郎は街で学生時代に想いを寄せていた春代という女性と出会う。離婚していた春代と光太郎は徐々に近づき、典子の目から見ても良い雰囲気になっていた。

 そして亡き母親の誕生日。毎年、光太郎と2人きりで母親の誕生日を祝っていた典子だが、その日に光太郎と春代が仲良く喫茶店に入るのを目撃してしまう。

“今日は亡くなったお母さんの誕生日なのに、お父さんは忘れてるんだ”と、ショックを受けた典子は北野と母親の墓を訪れ、涙を流す。しかしそこに突如現れた光太郎。北野に“なんでお前がここに来ているんだ!”と詰め寄る足元には、生前、母親が好きだった花束がしっかり用意されているのであった。

 本作では光太郎から典子への過干渉がクローズアップされているが、実は大事な人を亡くして寂しさを抱えているのは典子も一緒。亡き母親のお墓参りには、肩を寄せ合って生きてきた父親と2人でしたいという想いが切ない。

 結局、春代はほかの人との再婚を光太郎に相談していただけで、光太郎も亡き妻を大切に思っていた。親子で同じ種類の花束を用意していたオチにはグッとくるものがある。

■この親にしてこの子あり! 「おじいちゃんも心配症の巻」

 第8話「おじいちゃんも心配症の巻」では、光太郎の父親が登場する。

 典子にとっての“おじいちゃん”が光太郎のもとに来た理由は、彼にお見合い話を持ってきたからであった。しかし、お見合い相手は野生のニシキヘビと戦うようなワイルドな女性であったため、光太郎はやんわりと断る。

 しかしおじいちゃんは、その後も光太郎をしつこく詮索し、光太郎のあとをついて悪い女にたぶらかされないよう見張っていく。しまいには、光太郎に厳しくする上司に銃を向ける始末……。

 もういい加減にしてくれと頼む光太郎に対し、父は実はお見合いを持ってきたのは口実であり、全然帰省しない光太郎に会いに来たと白状する。銭湯に一緒に行ったこともあり、「ひさしぶりに光太郎に背中洗ってもらってうれしかったよ」なんてつぶやく姿は、なんとも切ない。

 光太郎の父親だけあって、やることは普段光太郎が典子にしていることと一緒。おじいちゃんも光太郎を心配するあまり過激な行動をとってしまうが、根底には子どもを心配する親心がある。

 父が家に帰ったあと、「さんざんなめにあったけど いざ別れるとなると…さびしいナァ」とつぶやく光太郎のセリフは、親と離れて暮らす多くの人に共通するものだろう。

■ハチャメチャな努力がいつかは報われる「安井さんからの頼まれごとの巻」

 第37話「安井さんからの頼まれごとの巻」は、光太郎が本気で再婚を考えている相手、安井千恵子が勤める病院でのドタバタ劇だ。

 病院にいる元気のない患者さんを励ましてほしいと頼まれた光太郎、同じく安井さんに恋する病院院長とバトルをしながら、元気のない患者を励ましていく。

 しかし四号室の患者は、生きる気力をなくした人ばかり。“生きていたって仕方ない、あんたも不幸でしょ?”と絡まれた光太郎は、”自分にはかわいい娘も愛する人もいるから不幸であるはずがない”と反論。しかし「それでその『愛する人』は あんたのことどう思ってるの?」と聞かれた光太郎。安井さんの気持ちを確かめる勇気がなく、病院から逃げ出してしまう。

 残された患者は「あんなわけのわからん人を 愛する女性なんかいるわけないよなあ」とバカにするのだが、そこで安井さんは「…わたしあの人を愛しています」と告白するのであった。それを聞いた患者たちは「世の中みすてたもんじゃないぞっ」と奮起し、結果的に光太郎の影響で元気になる……というエピソードだ。

 本作では、決してカッコいいとはいえない光太郎が自分なりに努力し、一生懸命安井さんにアプローチしている姿が素敵だ。何事もやり過ぎてしまうのが残念だが、娘と愛する女性を一生懸命守ろうと日々奮闘する姿に少しだけ見習うものもあるだろう。

 ギャグ漫画である『お父さんは心配症』だが、ちょっと感動してしまうようなセリフも多い。しかし良いセリフを言った人が殴られたり、感動した光太郎が暴走して相手を気絶させたりなど、その後のハチャメチャな展開が半端ない。

 

 カオスな世界観のある漫画だからこそ、感動的なオチは印象に残るのだが、最終ページではやはりギャグで締めているのも、この作品ならでは。“りぼん黄金期”のなかで異彩を放った『お父さんは心配症』、これを機に読み返してみてはどうだろうか。