『呪術廻戦』夏油傑と『幽☆遊☆白書』仙水忍…新旧“闇堕ち”キャラの対比から見えてくるテーマの違いを考察の画像
©芥見下々/集英社・呪術廻戦製作委員会

 7月6日、芥見下々氏による大ヒット漫画『呪術廻戦』のアニメ2期が放送開始となった。2クール連続放送となる今期の前半部では、『劇場版 呪術廻戦 0』で最大の敵となった呪詛師・夏油傑の過去「懐玉・玉折」編が描かれている。

 ところで、原作漫画でこの「懐玉・玉折」編が描かれて以降、巷では冨樫義博氏『幽☆遊☆白書』の仙水忍と夏油との共通点が度々指摘されてきた。いずれも正義感が強く有能ながらも“闇堕ち”したキャラクターであり、“善悪の反転”というテーマが投げかけられているあたりからも、たしかに夏油のエピソードは仙水編をなぞっているようにも思える。

 しかしキャラクターそのものを掘り下げていくと、彼らには共通点以上に対照的な点が目立つことに気づく。そこで今回は夏油と仙水の相違点のほうに着目し、そこから見えてくるテーマについて考察していきたい。

■呪術師だけの世界を作ろうとした夏油

 闇堕ち前の夏油の価値観は「弱者生存」「呪術は非術師を守るためにある」というものだった。しかし非術師が持つ弱者ゆえの愚かさや醜悪さを目の当たりにして以降、彼の価値観は揺らぎ始める。

 呪霊という化け物を生むのは、呪力をコントロールできない非術師だけ。にもかかわらず、術師は彼らを呪霊から守るために死んでいく。なぜ愚かな弱者を守るために仲間が死なねばならないのか?守る意味や価値はあるのか?そんな葛藤の末、夏油は非術師を皆殺しにして術師だけの世界を作ることを目指した。このときの彼の価値観を一言で表すなら、彼自身が標語のひとつとして掲げている通り、「弱者に罰を」だろう。

■魔界で死にたかった仙水

 仙水も、出発点は夏油と似ている。自分にしか見えない存在がいること、襲ってくるそれと戦うことについて、「きっとボクは選ばれた正義の戦士で」「あいつらは人間に害を及ぼす悪者なんだな」と考えていた。

 だが、やはり人間側の醜悪な部分を目にしたことで傷つきや絶望に囚われ、最終的には魔界へとつながる界境トンネルを開いて人間を皆殺しにしようとする。コエンマの言葉を借りるなら、「人間全てに罪の償いを求めようとしている」わけだ。

 一方で仙水は、病気のため残り半月足らずの命だった。そんな彼の本当の目的は魔界で死ぬことであり、界境トンネルは魔界の先住民への手土産に過ぎなかったことを最期に明かしている。

■壮大なスケールで普遍的なテーマを描いた『幽☆遊☆白書』

 守るべき対象が罰すべき対象に180度変わった点は、夏油・仙水ともに共通している。しかし夏油が“術師か非術師か”という二元論の枠を出ないまま選民思想に舵を切ったのに対し、仙水は“善か悪か”という物差し自体が間違っていたと気づき、破壊思想に至った。

 このように善悪の所在を明らかにしないテーマは、その後の『幽☆遊☆白書』における特徴の一つとも言えるだろう。主人公の浦飯幽助は、妖怪が人間を食べることを「食事」と割り切り、人間を食べることをやめた雷禅に「(人間を)食えよ」と言う。たしかに妖怪が人間を食べるのも、人間が牛や豚を食べるのも、ライオンがシマウマを食べるのも、行為自体に何ら変わりはないはずだ。善も悪もない。

 物語の終盤ではそんな妖怪たちと人間たちが共存し、種族の垣根が取り払われた世界が描かれる。善悪の概念にとらわれないことで生まれた、普遍的な世界観だ。

■あくまで“人間”を描く『呪術廻戦』

 対する『呪術廻戦』では、術師も非術師も人間であり(夏油は非術師を“猿”と呼んで“人間”である術師と区別したが……)、さらに人間を脅かす呪霊ですら人間が生み出したものである。特級呪霊の漏瑚は“人間の真実である負の感情から生まれた我々呪いこそが本物の人間なのだ”と言っていたが、それも“人間の本質は善か悪か”といったことに集約されるだろう。

 人間の本質を問うことも普遍的なテーマではあるが、その中でさらに「正しい死」を追求するのもまた、本作の主題となっている。“手の届く範囲でいいから人を救って人に囲まれて死ぬ”というのが、主人公・虎杖悠仁が戦う目的だ。そこからは、一人の人間がどう生きるか、個人の価値観としてどこに善悪の基準を置くのか、というテーマも見えてくる。

 その点において『幽白』と比べると、こちらはより具体的で身近な、それこそ手の届く範囲の物語であるようだ。そうやって人間のうちに完結しながら、ぐるぐると果てしなく廻り続ける戦いを描いたのが『呪術廻戦』ではないだろうか。

 夏油と仙水。二人の魅力的なキャラクターを対比しながら、各作品のテーマの違いについて考えた。『呪術』を初めて読んだとき、『幽白』の再来を感じて嬉しくなった人も多いだろう。本誌ではいよいよ佳境を迎えているが、物語はどう着地するのか。どんな形で『幽白』と違うテーマを見せつけてくれるのか。期待しつつ見守りたい。