名作漫画の『北斗の拳』(原作:武論尊氏、作画:原哲夫氏)では、数多くの名勝負が繰り広げられたものだ。ケンシロウがラオウやサウザーと戦ったように、基本的には完全決着するものなのだが、なかには横やりが入ってしまった対戦もある。そこで、余計な邪魔が入らなければどうなっていたのだろう……と思ってしまう名勝負を紹介したい。
■哀しみの前に拳王も恐怖した! フドウ対ラオウを邪魔した可哀そうな部下たち
ケンシロウと対決したラオウは、究極奥義の無想転生によって恐怖を覚える。ユリアを奪い去ることに成功するも、ラオウは自身の恐怖を克服するために、かつてはじめて畏怖したフドウとの対戦を目論むようになった。
フドウは若かりし頃に鬼と呼ばれ、殺戮を繰り返す暴れん坊だった。その凄まじさは、修行中とはいえ、あのラオウが恐怖で一歩も動くことができなくなるほど。だが、フドウは幼いユリアによって命の尊さを教えられて鬼を封印し、以降は孤児を育てる優しい男となっていた。
ラオウは孤児たちを盾にとり、フドウにもう一度鬼になって自分と戦えと促す。気迫を取り戻し、子どもたちの未来のためにラオウと対峙することにしたフドウ。ラオウは闘気によって地面に線を掘り、部下たちに“自分がこの線から一歩でも後退すれば背中を射ろ”と言い放った。
2人の戦いは最初はラオウが圧倒。戦いから一線を退いており分が悪いフドウだったが一向に引かず、全身傷つきながらも立ち向かっていく。
フドウの眼光には憎しみや怒りでもなく、哀しみが宿っていた。そして、フドウと子どもたちの眼がケンシロウの哀しみに満ちた表情と重なり、ラオウは再び恐怖して硬直してしまう。
「死ねラオウ!!」と、フドウが渾身の一発を振り下ろそうとしたそのとき、無情にもラオウの背後から巨大な矢が飛んできてフドウの体を貫いた。実はラオウ、自分でも気付かないほどの恐怖から、自ら引いた線を超えて後退してしまっていたのだ。
「恐怖に硬直したその肉体は 退かなければ砕け散っていた」「勝ったのはおれとケンシロウだ!!」と言い放ち、さらに襲いかかろうとするフドウ。しかし、ラオウの部下たちがさらに放った無数の矢が突き刺さり、とうとう力尽きて倒れてしまう。
もしもラオウの部下たちが矢を放っていなかったら……硬直したラオウにフドウの一撃が決まっていたのかもしれない。愛がテーマである『北斗の拳』では、哀しみを背負う者こそが本当の強さを持つ。それだけにまだ哀しみを知らないラオウは、フドウに倒されていてもおかしくはなかった。
ところで、悲惨だったのはラオウの部下たちだ。「い…一体 どうなされたのですか!!」「まるで デクの棒のように!!」とラオウにまさかの“デクの棒”という進言をした勇気ある部下は顔面を潰されてしまう。
さらに「きさまら なぜ この拳王を射なかった!!」と、まさかの逆ギレ。せっかく命を救ったのに「敗れて命を拾おうとは思わぬわ!!」と部下をなぶり殺すのだ。ええ〜こんな上司……絶対嫌だ!
■ケンシロウ対ヒョウ 実の兄弟対決を遮ってしまったシャチ
修羅の国編において、クライマックスといえるのが三人の羅将との対決だ。なかでも第二の羅将・ヒョウはケンシロウと実の兄弟だった。
ケンシロウとの対決時にはすでに魔界に入っており、カイオウと同じ魔闘気を纏っていたヒョウ。しかし、ケンシロウはカイオウと戦って敗れた際、魔闘気に触れており、攻略法を身につけていた。
同じ北斗宗家の血を背負うとはいえ、ケンシロウの方が血は濃い。北斗神拳伝承者として数々の強敵と戦い、哀しみを背負ってきたケンシロウはさすがに強く、単純な拳の勝負ならやはり分があった。
一方のヒョウは北斗神拳の候補から外され、婚約者を殺され、カイオウに裏切られ、記憶を抹消されるなど、悲惨な人生を送ってきた。それでも、羅将としての意地がある。
最後の奥義ともいえる「万手魔音拳」を繰り出し、無数の突きを繰り出して勝負を決めようとしたヒョウ。だがそのとき、背後からシャチの手刀によって胸を貫かれてしまう。
シャチはケンシロウに生き残ってほしい一心で横やりを入れたのだ。対決の邪魔をしたシャチは「オレは愚か者 死してわびよう!!」と自害しようとするが、ヒョウは「こ…これでいいのだ…シャチよ!!」と止める。実はこのときヒョウはすでに記憶が戻っており、最後の技もケンシロウに破られることを見越して放っていたことを明かす。
横やりが入ったものの、ヒョウが自ら言うようにケンシロウが勝利していた可能性は高い。とはいえ、最後にどんな技でヒョウを倒そうとしたのかが気になるところだ。
しかし、これがラオウだったらシャチは瞬殺されていたかもしれない。「どこまでも下衆なやつよ!!」なんて言われていたりして……。
さて、横やりが入ってしまった名勝負を挙げてみたが、やっぱり一番可愛そうなのはラオウの部下たちだ。あんな怖い上司に背中を射ろと言われても普通はできないし、やらなかったら殺されるなんて理不尽極まりないな……。