昭和のアニメ好きを虜に!伝説のアニメ雑誌『月刊OUT』のディープでトンデモな世界の画像
『月刊OUT』(編集部撮影)
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 今年も8月12日・13日の両日、東京ビッグサイトで夏コミが開催された。コミケこと「コミックマーケット」は、漫画・アニメの二次創作同人誌をはじめ、オリジナル作品、コスプレ、評論など、幅広いジャンルの創作物を頒布する参加型イベント。1975年12月21日に東京・虎ノ門で開催された「第一回コミックマーケット」は32サークル・約700人の参加で、現在のコミケよりもはるかに小規模なものだった。ところが、70年代後半から『宇宙戦艦ヤマト』や『機動戦士ガンダム』などのアニメがブームとなり、いわゆる「オタク文化」が開花すると同時にコミケでは「アニメパロディ」を略したアニパロと呼ばれるジャンルが一気に増えていく。

 そんなブームの少し前、1977年にみのり書房が発行した『月刊OUT(以降OUT)』が産声を上げた。アニメ雑誌の老舗とされる『アニメージュ』(徳間書店)より1年も早く刊行された本誌は、今では考えられないほど豪華な執筆陣に加え、やりたい放題な誌面に面食らった読者も多い。さらに、前述した「アニパロ」は『OUT』発祥とされ、当時のオタク文化をけん引する一翼をも担っていたのである。

 アニメへの熱い思いを投稿し、ファン同士が交流し感想や共感を分かち合い、公式では叶わないであろう「二次創作」も楽しめるなど、他アニメ誌とは一線を画した『OUT』を振り返りたいと思う。

■最初は「金田一耕助」からスタート?

 オカルトやアダルト書籍を出版していた「みのり書房」が、1977年に発行したサブカル雑誌が『月刊OUT』だ。3月に発行された創刊号(5月号)では「金田一耕助」特集の目玉に原作者・横溝正史さんのインタビューを掲載し、海外SFを意識したような表紙にアニメ色は伺えなかった。

 ところが、創刊2号となる翌6月号では表紙に『宇宙戦艦ヤマト』が使われ、海外のSFや探偵小説を押しのけアニメ作品『ヤマト』を「どうどうの60ページ!!」で掲載。テレビアニメを再編集した劇場版『ヤマト』が8月6日公開したのを考えると、ヒットの予兆があったにしろ早々に特集を組んだ本誌は当時のアニメ好き読者にとって貴重な1冊になったのは間違いない。

 その後も海外SF作品、B級映画など、さまざまなサブカルを登場させ続けたが、12月号ではSF漫画『超人ロック』を表紙にするなど徐々に漫画・アニメの特集が増えていき、翌1978年になると一気に加速していく。

■アニパロ漫画や小説が豊富に!そして数々のやらかしも…

 70年代のOUTはアニメ版『ヤマト』のコミカライズで知られる漫画家・ひおあきらさんなどにも注目し、後に同氏の漫画連載も開始させている。筆者が聖悠紀さんの『超人ロック』を知ったのは、ここでの連載漫画がきっかけだ。これら漫画の他に、初期からオリジナル小説を連載するなどさまざまな企画を試みていた。

 こうして、どこか手探り状態だった誌面に大きな転機を与えたのが版権キャラを用いたパロディ企画である「アニパロ」だ。吾妻ひでおさんをいく度となく起用し、自キャラの他にアニメキャラが描き下ろされ読者を歓喜させた。

 1980年になるとアニパロ要素がさらに増し、4月号に掲載されたガンダムのパロディ漫画「ざ・ライバル」は『機動警察パトレイバー』などで知られるゆうきまさみさんのデビュー作であり、「恐怖のあにめぱろでぃ〜大特集」と称した7月号では可愛い絵柄の浪花愛さんなども参加。その後、『MY HOMEギジェ』の岩崎摂さん、アニメキャラがハンバーガー店で働く『戦場で…!?』のやぎざわ梨穂さんなど、多くのアニパロ作品が誌面をにぎわせるようになる。

 筆者はシャアがムーミン世界に転生したアニパロ小説『ムーミン谷の赤い彗星』に相当驚いた覚えがあるが、なかには今では実現不可能であろう「やり過ぎ?」と思わずにはいられない企画も珍しくなかった。

■パロディだけではない!あの有名作家によるコーナーやアニメ公式となった作品も!?

『OUT』は読者投稿型雑誌としても人気があり、投稿コーナーには『桃鉄』のさくまあきらさんや『ドラクエ』の堀井雄二さんが担当。さらに、『ミンキーモモ』や『バイファム』のキャラクターデザインを担当した芦田豊雄さんの「人生冗談」では、『オーバーロード』などのキャラクターデザインでも知られる吉松孝博(サムシング吉松)さんが読者投稿として活躍していた。

 また、誌上ではアニメ作品のノベライズとして『NG騎士ラムネ&40XX』や『鎧外伝・水滸 澪の彼方へ』などが連載され、後にこれら小説はそれぞれの公式本に収録。OUTはアニパロだけではなく、アニメ公式となる作品も生み出していたわけである。 

 少々本筋と離れてしまうが、同誌は1982年の臨時増刊号などを経て隔月マンガ雑誌『アニパロコミックス』や『アニパロコミックスJUNIOR』などを刊行。今で言う“同人作家”がアニパロを描く中、巣田祐里子さんの『GO!WEST』や前述のゆうきまさみさんによる『ヤマトタケルの冒険』と言った良質のオリジナル作品も掲載され人気となった。

 この時代に生まれた読者投稿型雑誌に『ファンロード』もあり、こちらの読者が「ローディスト」で『OUT』は「アウシタン」と称され、両誌を併読している読者は多かった。

 そんなアウシタンたちは"ゆう坊"こと堀井さんが『OUT』誌上で呼びかけた「2042年8月27日午後3時に御茶ノ水駅四谷寄り改札口に集合」を信じ、今なお心待ちにしているのではないか。約束の19年後、アニパロやサブカル界隈がどのような変化を迎えているのだろか?

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