暑くなってくるにつれて、ニュースでは日本各地で熊の被害が報告されている。熊の存在が遠い都会の人からすれば、あまりピンとこないかもしれないが……しかし、熊の持つ身体能力を舐めてはいけない。軽自動車ほどの重量、鋭い牙と爪、強靭な肉体、それに意外と足が速く、敵や獲物と判断したときに見せる凶暴性は、もはや我々人間には止めることができない。そこで今回は、熊の危険性が実感できる漫画のシーンを紹介していこうと思う。
■『銀牙 ー流れ星 銀ー』赤カブトの再来
高橋よしひろ氏による『銀牙 ー流れ星 銀ー』(集英社)は、動物目線で繰り広げられる戦いの物語である。そして、一番最初の強敵として現れたのが、“赤カブト”と呼ばれる熊だ。
赤カブトはマタギ・竹田五兵衛の放った弾丸により右頭部を貫かれ、右目を失った。その際、脳を損傷したことで冬眠をしなくなり、異常なまでに巨大化している。
ほかの熊と比べても、あらゆる面で熊界のトップオブトップの赤カブト。巨体から繰り出される攻撃は、想像を超えるほどの破壊力だ。
その恐ろしさが分かるのは、赤カブト再来のときだろう。冬の山の中でスキーを楽しんでいたカップルのもとに現れた赤カブトは、男性の頭を一撃で吹き飛ばしてしまう。そして、そのまま男性の遺体を食べ始めたのだ。
その光景を目の当たりにした女性は腰を抜かして動けなくなるのだが、筆者も赤カブトの凶暴さや残忍さを見て震え上がった。熊が人を食べるというのは半信半疑だったもので、そんな考えが覆された気分でもある。
もちろん、実際の熊とは違う部分もあるだろう。しかし、赤カブトが最後まで見せた凶暴さは鮮明に残っていて、熊には絶対に近づきたくもないし出会いたくないと思わされた。
■『ゴールデンカムイ』追っ手を殺したヒグマ
野田サトル氏による『ゴールデンカムイ』(集英社)は、北海道を舞台に繰り広げられる冒険漫画だ。この作品は、明治時代の人々の生活やアイヌ文化などを詳しく知ることができる。とくに熊の特徴や習性についてもアイヌの知恵が十分に活かされているので、「もし最悪の状況になったら参考にしてみよう」という気にさせられた。
作中では何度もヒグマが登場し、敵だけではなく熊対策もしておかないと命を落としかねない状況ばかり。なかでも印象に残っているのが、杉元が3人の追っ手から逃げている最中にヒグマに遭遇したシーンだ。
ヒグマは追っ手を敵とみなし、鋭い爪で顔の肉をそぎ取り、牙で噛み砕き、とてつもない腕力で木の上に放り投げていた。しかも眉間に銃弾を打ち込まれても、すぐ死なずに襲いかかってくるのだから驚きである。たとえ巨漢の熊でも、銃弾が頭に当たれば死ぬと思い込んでいたからだ。
作中で熊対策として挙げられていたのが、動かず熊に落ち着いて話しかけるというものがあった。しかし、常人は接近する熊の恐怖心に耐えられるはずもない。ほかにも、熊の巣穴に入れば、なかに入った人間を襲わないというのもあった。とはいえ、これも実際に行うのは無理だろう……。
ここで紹介した以外にも熊の習性について語られているシーンはあったので、遭遇を避けるという意味では参考になるはずだ。
■『ザ・ファブル』クロのリュックを狙う熊
南勝久氏による『ザ・ファブル』(講談社)は、伝説の殺し屋・佐藤が1年間“普通の暮らし”を目指して奮闘するストーリーである。
作中、佐藤が感覚を鈍らせないために山ごもりをしたとき、熊に襲われる描写が登場する。しかもその熊は、動きや見た目がかなりリアルなのだ。
佐藤と行動をともにしていたクロが襲われるシーンは、「実際に熊に遭遇したらこうなるだろう」という描写だった。熊がクロのリュックを狙うシーンでは熊の習性や本能を知ることができ、見た目以上の凄まじい力を持ち、獰猛だということが伝わる。
漫画に登場する熊はどちらかというと大げさに描写されているが、『ザ・ファブル』では現実に近い形で描かれているので対抗策も役に立ちそうである。「小さい熊なら大丈夫そう」という考えは危険とも思わされた。
作中、佐藤が見せた自分を大きく見せて大声や音で威嚇して熊を退かせる、というのはかなり効果がありそうだ。実際、島根県江津市の公式ホームページ「クマに遭遇してしまった場合の対処法」でも、“自分を大きく見せる必要がある”ことが記載してある。万が一のときに備えて、覚えておきたい知識の一つだ。
日々、熊のニュースが取り上げられているものの、実生活において遭遇する機会なんてそうそうないため、あまり意識していない人も多いだろう。
しかし、これらの漫画を読むと、熊の特性や凶暴性を十分に感じることができる。もしも山に入る機会があるときは「自分は大丈夫」と思わずに、熊対策をしっかりとする必要があるだろう。そして、万が一のときは、漫画で得た知識を利用すると役に立つかもしれない?