『SLAM DUNK』や『ヱヴァンゲリオン』も…ジブリ最新作『君たちはどう生きるか』で話題になった「宣伝なし」で成功したアニメ映画作品の画像
『君たちはどう生きるか』ポスタービジュアル (c)2023 Studio Ghibli

 7月14日に公開されたスタジオジブリ最新作『君たちはどう生きるか』。本作は、鳥のような生きものが描かれた1枚のポスタービジュアルが明かされたのみで、あらすじやキャストなどは開示されないまま公開日をむかえた。

 “前情報なし”という本作は、ファンのさまざまな推測や考察を生み、結果的には多くの注目を集めることに成功している。そこで今回は『君たちはどう生きるか』のように「宣伝なし」という戦略で大成功をおさめたアニメ映画を紹介していこう。

■同じくジブリ作品でも…!? 1カ月前まで宣伝なしだった『ハウルの動く城』

 2004年11月に公開された『ハウルの動く城』。実は本作でもスタジオジブリは「宣伝をしない宣伝」を試みている。

 スタジオジブリの公式サイトでは、“近年の新作映画について事前に情報を明かしすぎてしまい、観客が映画館から遠のいていると感じたことから、あらたな試みとしてこのような戦略にした”と、明かしている。

 本作の宣伝は、公開の1カ月前から集中しておこなったそうで、予告編のテレビ放映をせず、あらすじも公開しないという徹底した“宣伝なし”を貫いたそうだ。

 従来のスタジオジブリの宣伝方法とはまったく違う形で公開された『ハウルの動く城』。結果的には、2001年に公開された『千と千尋の神隠し』、1997年に公開された『もののけ姫』に続く大ヒット作となった。

 なにもわからないまま劇場に足を運ぶからこそ、作品を新鮮な気持ちで味わうことができた本作。劇場で実際に鑑賞した筆者も、当時作品を見終わったあとに味わった清々しい気持ちを今でも覚えている。

■世界を席巻した大ヒット作も!『THE FIRST SLAM DUNK』

 2021年1月に制作が発表された井上雄彦氏の漫画『SLAM DUNK』の新作映画『THE FIRST SLAM DUNK』も、極限まで前情報を明かさない「宣伝なし」の状態で公開をむかえた。

 公開まで公開日が明かされた以降あらすじなどはわからないままで、1カ月前にキャスト陣だけが発表された本作。キャスト陣については、1993年から放送されたテレビアニメ版から一新されていたこともあり、反応はあまり良いものではなかったようだ。

 そんな状態で2022年12月に公開となった『THE FIRST SLAM DUNK』。蓋を開けてみれば公開初週の2日間で動員84.7万人、現在では興行収入150億円(7月31日時点)を記録しており、世界中を席巻する大ヒット作となっている。

週刊少年ジャンプ』発行部数が653万部の歴代最高記録をたたき出した黄金時代を支えた『SLAM DUNK』は、当時放送されたテレビアニメも人気だったことから公開前からファンの期待値が高かった。その熱量のあまり、声優陣の入れ替えに対して不満を感じ、なかには作品を見る前から酷評を寄せる人もいたほどだった。

 しかしいざ映画が公開されると、たちまち“スラダン熱”は再燃。その人気は語らずとも一目瞭然だろう。良くも悪くも公開前から話題をさらっていたのは確かで、作品自体も素晴らしいものであったからこそ、この戦略は成功したように思える。

■2度の公開延期も跳ね返す大ヒット! 『シン・エヴァンゲリオン 劇場版𝄇』

 2021年3月に公開された『エヴァンゲリオン新劇場版』の最新作で4部作の完結編となった『シン・エヴァンゲリオン劇場版𝄇』。本作も、ほとんど宣伝がない状態での公開を迎えたアニメ映画の一つだ。

 当初、2020年6月に公開が予定されていた本作は、新型コロナウイルスの流行により公開が延期となった。その後、2021年1月に公開日が再設定されたものの、同月に2度目となる緊急事態宣言発令を受け、再び公開日は未定に……。

 実は本作は、公開より約1年前の2019年7月6日、冒頭のシーンを約11分間にわたり、日本だけでなくパリやロサンゼルスなど8都市9会場で同時に上映するという異例のプロモーションをおこなっていた。

 最新作のシーンを“チラ見”したファンの期待はますます高まっていたのだが、そこに2度の公開延期を余儀なくされてしまったのだ。

 制作陣の一人、東映企画調整部プロデューサーの紀伊宗之さんは、“市場の熱”を冷やさないことに必死だったとのちのインタビューで明かしている。

 そうしてコラボグッズなど作品の関連商品を発表したり、公式アプリ『EVA-EXTRA』やSNSでのプロモーションをおこない情報を出し続けることで、市場の熱は冷めることなく、無事、最新作の公開へとたどり着いた。蓋を開けてみれば新劇場版シリーズのなかでも歴代1位のヒット作に。

 エヴァといえばゲリラ的なプロモーションが風物詩となっていたが、新型コロナの影響でイベント関係は軒並み中止になるなど、難しいプロモーション期間だっただろう。

 しかし「宣伝がほとんどできない」状態だったことが、逆にファンの期待を高め、これだけの大ヒットを生んだのかもしれない。

 今回紹介した3作品は「ほとんど宣伝がない」状態で公開を迎えたものの、大ヒットを記録している。『ハウルの動く城』や『SLAM DUNK』のように近年の傾向を逆手にとって“あえて”宣伝がない状態で公開したものや、『シン・エヴァンゲリオン』のように宣伝ができないまま公開となったものまでさまざまだ。

 1つ言えるのが、もともと作品の魅力が分かっており、期待できると判断したからこそ「宣伝なし」でも観客は劇場に足を運んだということだ。それまで培ってきた信頼度があったうえでの「宣伝なし」戦略が成功したパターンではないかと思う。

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