昭和50年に放送が開始され、日本の各地に伝わる昔ばなしをアニメ化した『まんが日本昔ばなし』。市原悦子さんと常田富士男さんがナレーションと声優を務め、1人で何役もこなす独特の手法で制作された本作は、レギュラー放送終了後も再開を熱望する声が続々と寄せられている人気シリーズだ。
日本各地を舞台にしている昔ばなしとあって、なじみがある土地に伝わる逸話なども楽しめるのが魅力の本作。そこで今回は『まんが日本昔ばなし』のエピソードのなかから、「東京23区」を舞台にしたものに注目して、ご紹介していこう。
■『おいてけ堀』:東京都墨田区錦糸町(錦糸堀)
東京都墨田区に伝わるという奇談・怪談である「本所七不思議」。そのなかでもとくに有名なものが「置行堀」というエピソードだ。『まんが日本昔ばなし』では、1976年に「おいてけ堀」というタイトルで放送された。
魚を釣った人が帰ろうとすると、「おいてけ〜」という不気味な声がお堀から聞こえるという噂の「おいてけ堀」。誰も近寄ろうとしないこの場所に意気揚々と向かったのが、ある魚屋の男性だった。
威勢のいいこの男性は噂をものともせず、大量の魚を釣り上げ上機嫌。いざ帰ろうというとき、噂どおりに「おいてけ〜」という不気味な声が……。釣った魚を置いていくわけにはいかないと足早にその場をあとにした男性だが、その行先では恐ろしい出来事が待ち受けているのだった。
日本の有名な妖怪・のっぺらぼうが登場することでも印象的だった、この「おいてけ堀」のエピソードは1991年にも放送されている。ひと捻りきいた結末にゾクッとするので、ぜひ見ていただきたい。
■『しばられ地蔵』:東京都葛飾区(南蔵院)
東京都葛飾区の南蔵院にある「しばられ地蔵」を描いたエピソードは、1977年に放送された。
あるお地蔵様の前で寝てしまった男性が目を覚ますと、持っていたはずの反物がなくなっていた。男性の声を聞きつけたお役人は犯人を探しはじめ、男性に「周りに誰もいなかったか」と聞いたところ、彼は“誰もいなかったがお地蔵様はいた”と証言。するとお役人は犯人がお地蔵様だと、縛り上げてしまったというこの話。
実はお地蔵様を縛り上げたのはお役人の機転によるもので、最終的には無事に男性の反物は手元に戻ってくるのだから、よくできた話だと思う。
実際に「しばられ地蔵」が安置されている南蔵院に残る伝承によると、この出来事によって当時江戸中を困らせていたという大盗賊団が一網打尽となったそうで、お地蔵様は人々に大変感謝されたそうだ。
現在でも、あらゆる願い事を聞いて下さる地蔵尊として祀られている「しばられ地蔵」は参拝者の心の支えになっており、お願いをするときは縄を縛り、願いが叶ったら縄を解くという風習が大切にされている。