“少女漫画界に咲くドクダミの花”…『りぼん』“伝説の漫画家・岡田あーみん”のエキセントリックさがすごかったの画像
「特別展 りぼん」公式ビジュアル

 みなさんは、1983年から少女漫画雑誌『りぼん』(集英社)で活躍したギャグ漫画家・岡田あーみんさんをご存じだろうか。

 当時の『りぼん』はまさに少女漫画全盛期であり、キラキラと瞳を輝かせた女の子がピュアな恋愛劇を展開するのが一般的だった。しかし、岡田さんの作品はコンプライアンスの厳しい現在では掲載できないようなのではないかと思うほどインパクトの強いもので(!?)、“伝説の漫画家”として今もなお名を馳せている。そこでここでは、岡田さんの作品についてたっぷりと紹介していきたい。

■『りぼん』のイメージが変わった!? 伝説のギャグ漫画『お父さんは心配症』

『お父さんは心配症』は、岡田さんが『りぼん』ではじめて手掛けた連載漫画である。

 主人公・佐々木光太郎は妻に先立たれ、娘・典子を一人で大事に育ててきた中年男だ。光太郎は高校生になった年頃の典子を心配するあまり、典子のボーイフレンド・北野に攻撃的な態度を取ってしまう。

 ……と、ここまで聞くと“父親が娘を心配するなんて普通だろう”と、思ってしまうかもしれない。しかし、光太郎の心配の程度は半端じゃないのだ。

 たとえば、北野を藁人形で呪ったり、家に来た彼を斧で襲ったり、さらに北野が体育祭で活躍しそうな場面ではなんとピストルで撃ったり……など、心配性の度を軽く超えすぎている。

 そして、登場時には真面目だったキャラクターたちも、幸太郎の影響を受けてか、だんだんおかしくなっていく。トラブル時に「うげッ」と言って口から血を吐くのはお決まりで、キャラ全員が突如現れた大蛇に呑まれたり、目をバキバキに充血させて突如踊り狂ったりと、なんでもアリなのだ。

 ちなみに岡田さんの描く作画は、勢いがものすごい。当時から美しく可愛い作画の少女漫画は多く見られたが、このシンプルかつ激しい画力は岡田さんにしか描けない唯一無二の特徴だと思う。一度目にすれば、“病みつき”になってしまう人が続出するのも分かるはずだ。

■画力が洗練された『ルナティック雑技団』…しかし中身は安定のシュールさ

 岡田さんは1983年から1997年までの期間、『りぼん』で3つの作品の連載を手がけている。先に挙げた『お父さんは心配症』、戦国時代を舞台に描かれた忍者漫画の『こいつら100%伝説』、そして、最後の連載となったのが『ルナティック雑技団』である。

『ルナティック雑技団』はそれまでの2作よりも明らかに画力が洗練されており、ファンは驚いた。だが、内容は“あーみんワールド”全開だった。

 星野夢実は美少年の天湖森夜のことが好きな女子中学生なのだが、ひょんなことから森夜の家に下宿することとなる。憧れの人とひとつ屋根の下に住めると喜ぶものの、実は森夜は自己認識が歪んだ究極の天然キャラであり、一般的な話が通じない……。そんな森夜と夢実の周りで起こる騒動を描いた本作。

 登場するキャラたちは、みな、ひと癖もふた癖もある人物ばかりで、たとえば、森夜の母親・ゆり子は『お父さんは心配症』の光太郎のようであり、森夜を溺愛するあまり息子に対して恋心を寄せる夢実に殺意を抱き、執拗な攻撃を仕掛けてきたりもする。ゆり子の登場シーンは光太郎を彷彿とさせる変態ギャグがたくさん出てくるので、本作の笑いのポイントだ。

 ほかにも、極度のナルシストぶりで周囲をドン引きさせる学園アイドル・愛咲ルイや、夢実の恋のライバル・成金薫子など、強烈なキャラクターがこれでもかというほど登場する。

 シュールなギャグ漫画であるものの、本作で唯一の常識人である夢実と人を信じられない森夜との関係性もうまく取り入れられており、あーみん作品のなかでは一番ラブストーリー要素が強い作品である。

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