1998年より『週刊少年ジャンプ』(集英社)にて連載されている冨樫義博氏の『HUNTER×HUNTER』。たびたびの長期休載を挟んでおり、現在、第401話以降は「週刊連載ではない掲載形態での継続」となっている。
長らく新エピソードが発表されていないが、7月4日に「クラピカ追憶編」が電子書籍として発売開始。これは『週刊少年ジャンプ』2013年1号・2号に掲載されたクラピカの過去を描くエピソードで、『劇場版 HUNTER×HUNTER 緋色の幻影』公開時に来場者プレゼントとして配られた「0巻」にも収録されている。
現在進行中の「暗黒大陸編」はクラピカが中心として描かれるエピソードでもあり、この「クラピカ追憶編」発売が連載開始の何らかの予兆ではないかと見るファンも少なくない。
■語呂の良い、声に出したくなる能力名
同作はハンターとなった主人公のゴン=フリークスを中心に、さまざまな冒険やバトルが繰り広げられるファンタジー作品。中でも自らの生命エネルギーを操る「念能力」という概念は、6つの系統に分かれていたり制約があったりと、読者の少年心をワクワクさせるものとなっている。
作中では、各々が念能力を用いたバトルが展開される。技を繰り出すときの技名は、名前に冨樫氏のセンスが光る独特の当て字がついたものとなっており、その文字列を見ていると「なるほど」「冨樫先生すごい」とつい納得してしまうものばかりだ。
今回は中でも、特に秀逸だと感じた当て字を紹介したい。
まずは、キメラ=アント編に登場したナックル=バインの使う「天上不知唯我独損(ハコワレ)」。オーラを借金に見立てて、それを返済できずに破産した相手の念を封じるという能力だ。
一見すると仏教の教えである「天上天下唯我独尊」のように見えるが、「天下」ではなく「不知」、「独尊」ではなく「独損」である。
これはおそらく、借金に限度がない=天井知らずであることと、相手の殺傷を目的としている能力ではなく、相手を破産させても自分のオーラは返ってこないので「損」という表現を用いているのだろう。
「ハコワレ」という読み方は麻雀用語「箱割れ」からきており、自分の持ち点が0以下になることをいう。この文字列に対して絶対に読めない当て字だが、相手のオーラを0にさせるという意味なのだろう。読み解くのは難しいが、元の意味などを考えると妙にしっくりくる。
また、冨樫氏の考えた念能力の読み方には、語呂がいいものも多い。ヒソカの「伸縮自在の愛(バンジーガム)」「薄っぺらな嘘(ドッキリテクスチャー)」がその代表例。なぜかスッと頭に入ってくる上、つい声に出してみたくなる。
それぞれの能力も、オーラをゴムとガムの性質に変化させるというものと、自身のオーラをさまざまなものに変化させ表面(ただし紙のような薄っぺらいもの)を覆い隠すというもので、トリッキーだが工夫次第でどうとでも使えるところがなんともヒソカらしい。
念能力の名前の由来は、ヒソカが子どものころ好きだったチューインガムの商品名といたずらシール入りの菓子からとっているという。
このほかにも、幻影旅団のフランクリンの使う、自身の10本の指から機関銃のようにオーラを出す「俺の両手は機関銃(ダブルマシンガン)」も、意味も名前もそのままながら印象強く残る。単純なネーミングも彼の性格がよく出ているようだ。
さらに、ヨークシン編に登場した、ネオン護衛団のメンバーだったヴェーゼの使う、キスした者を3時間自分の下僕にする「180分の恋奴隷(インスタントラヴァー)」も、技の名前も読みも能力にマッチしている。彼女はシズクに瞬殺されてしまったが、もっと能力を駆使して活躍するシーンが見てみたかった。