■『チ。―地球の運動について―』で、知ることへの情熱を持ち真理を追究する

 宗教的に天動説が絶対と信じられていた時代において、異端思想とされ迫害の対象となった地動説。その証明に命を捧げた人々の生きざまを描いた『チ。―地球の運動について―』(魚豊氏)。

 印象的なタイトルにはいくつかの意味が重なっており、それも含めて感慨深く、何よりも熱く、題材となっている天文学に負けず劣らずスケールの大きな作品だ。

 本作の醍醐味は天文学そのものの面白さ以上に、そこにかける人間の“熱”にダイレクトに触れられるところでもある。この世のすべてを知りたいと切望すること、世界の真理を追究し証明しようとすること、宇宙が持つ合理的な美しさに感動すること。その熱が伝播し、時をまたいで受け継がれていくさまは圧巻だ。

「命を捨てても曲げられない信念があるか? 世界を敵に回しても貫きたい美学はあるか?」というのが、本作のキャッチコピー。実際、地動説に心を奪われたキャラクターたちは信念と美学のために人生を狂わせていくが、それもまた人間としては極上の幸せではないだろうか。

 とはいえ、あえて我が子の人生を狂わせたい親はそうそういないだろう。本作では単純に知ることの感動に触れ、それを情熱に変えて、真理を追究する喜びに目覚めてくれれば嬉しいかな、と思う。

 

 以上、理系の世界を描いた作品をいくつか紹介した。理系脳を育て、合理的で客観的な思考パターンを身につけることで、子どもの可能性は今以上に広がるだろう。とはいえ、どの世界に興味を持つのかは本人の自由だし、興味のないことを無理やり教えようとしたところで、教えるほうも教わるほうもつらいだけだ。

 漫画・アニメ好きな大人としては、子どもたちがたくさんの作品に触れるなかで良い刺激を受け、自分なりの価値観を見つけてくれることを願う。

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