獣医師を目指す学生の日常を描いた『動物のお医者さん』(佐々木倫子氏)に、菌を肉眼で見ることのできる主人公が、細菌やウイルス、そして人間たちとともに農業大学で繰り広げる物語を描いた『もやしもん』(石川雅之氏)。これらの作品のように学問の世界を面白く描いた漫画やアニメはどれも刺激的で興味深く、ときに子どもたちがその世界に関心を持つ良いきっかけとなる。
近年では、AIの進歩やIT業界の台頭により、我が子には理系の世界に進んでほしいと願う親も多いと聞く。そこで今回は、我が子の理系脳を育てるきっかけになるかもしれない、理系の学問を題材にした作品を紹介したい。
■『はたらく細胞』で人体の機能に親しみ好奇心を育む
人間の体を一つの世界とみなし、そこで働く細胞を擬人化した『はたらく細胞』(清水茜氏)。体の隅々まで酸素を運ぶ赤血球は配達員、体内に侵入した細菌やウイルスと戦う白血球は警備員といったように、それぞれの細胞の働きが職業として描かれているのが面白い。
個性豊かなキャラクターが多く、細胞に親しみを感じやすいのも、子どもが人体の不思議に興味を持つ良いきっかけになりそうだ。可愛いキャラやイケメンキャラもいるので、“推し細胞”でもできた暁には、自分の体内で推しが働いてくれているというアツい展開に。もしかしたら、推しをきっかけに将来その細胞の研究に没頭……なんてこともありうるかもしれない。
私たちは日々、すり傷、インフルエンザ、食中毒、アレルギーと、さまざまな症状に見舞われる。それを、ただ痛い、苦しい、つらいだけの不快な体験として終わるのではなく、そのとき自分の体内で、どのキャラがどのように活躍していたのかを想像する、考える、調べてみる。そんな体験につなげて、子どもの好奇心を育むきっかけになれば嬉しい。
■『Dr.STONE』で、科学のワクワクに触れてトライ&エラーの姿勢を学ぶ
ある日突然、全人類が石化するという謎の現象が起こってから3700年後。石器時代まで退行した世界で偶然石化から目覚めた天才高校生・石神千空が、科学の力で文明を復活させ、仲間とともに人類石化現象の謎に迫る『Dr.STONE』(原作:稲垣理一郎氏、作画:Boichi氏)。
石鹸やシャンプー、メガネ、鉄、果てには携帯電話と、天然資源を利用してゼロから文明の利器を作り出す様子は、大人でも十分ワクワクできる。
今私たちの身近にある便利な物は、すべて科学の発展の賜物だ。日々漠然と使うのではなく、それがどういう原理でどんな材料から作られ、どんな仕組みで動いているのか、子どもと一緒になって探求してみるのも悪くない。
加えて、困難にぶつかったときの千空の問題解決法も、ぜひ参考にしたいところだ。その方法とは、まずゴールを設定する→そこに至るまでに必要な行程をロードマップにする→各段階で必要な作業に取り組み、問題が生じれば地道に解決していく、という極めてシンプルなもの。
失敗体験で生じる心理的葛藤や内省に焦点を当てるのではなく、ひたすら具体的・客観的に問題点を探り、それを解決するための仮説を立てて試す、失敗したらまた考える。この超合理的な姿勢は、“トライ&エラー”という科学の性質に基づいたものであり、それこそまさに理系脳の典型的な思考パターンと言えるだろう。このあたりは子どもも大人も関係なく、失敗を恐れるすべての人間にとって良い刺激となりそうだ。