■二人が描く、憂いをおびたキャラの魅力
ここからは両氏の活動を振り返りながら、他の共通点を探してみたいと思う。
松本零士さんの代表作『銀河鉄道999』には、ハーロックやエメラルダスなど自身の別作品キャラが登場することで有名だ。石ノ森章太郎さんは『ミュータント・サブ』や『イナズマン』など「サブ」という名の典型的な主人公を多用し、『佐武と市捕物控』では佐武(さぶ)の他にもう一人の主人公・市として『サイボーグ009』の004(ハインリヒ)に似たニヒルキャラを登場させている。この手法は「スター・システム」と呼ばれ、同じ人物を他作品に別役で演じさせるものだが、漫画での元祖は手塚治虫さんだった。
また、どちらもSF作品を得意としながら、初期には少女漫画やファンタジーなども執筆。なかでも筆者が注目するのが、両氏が描いたある「成人向け」漫画だ。
松本さんの作品『セクサロイド』は、人間と同じ性的能力を持つアンドロイド・ユキによるSFスパイ漫画。石ノ森さんの『009ノ1』は、サイボーグ化したミレーヌこと009ノ1のこちらもSFスパイ漫画なのである。連載時期も1968年と1967年で近く、両ヒロインともに“完全な人間ではない”設定は、メーテルや島村ジョーなど憂いをおびたキャラたちの悲哀や魅力に通じるものを感じた。
今から10年前の2013年、宮城県登米市にある「石ノ森章太郎ふるさと記念館」で「松本零士展」が開催されたことがあった。告知ポスターなどには「二人の巨星による同じ時間 空気を吸っている仲間の物語。」と書かれていたのである。
福岡県と宮城県という遠く離れた二人の少年たちが、「漫画家」を志すことで互いに同じ時間、同じ時代の空気を吸う大切な仲間になりえた事実こそまさに"奇跡"なのかもしれない。