バトル漫画には、いろいろな戦い方のキャラクターが登場する。王道と言えるのは、剣などの武器を使用したり、素手での戦いを得意としたりする派手な戦い方だろう。しかし、中にはもっと地味な、いわゆる「暗器」の使用に特化したキャラクターもいる。暗器とは、衣類に隠したり、日用品に仕込んだりする武器のこと。その種類や用途は様々で、使い手によって戦い方も千差万別だ。「どうやって相手にバレることなく攻撃を仕掛けるのか?」「どのような武器を隠し持っているのか?」「その暗器をどう使うのか?」そんな風に考えるだけでもワクワクしてしまう。暗器使いは、正面からぶつかり合って戦うだけだと一本調子になってしまいがちなバトル漫画に変化をもたらすのだ。
そこで今回は、暗器の使用が巧みなキャラクターを紹介していきたい。
■「公園最強」は伊達じゃない!『グラップラー刃牙』本部以蔵
板垣恵介氏による『グラップラー刃牙』(秋田書店)シリーズには、暗器を使うキャラクターが多数登場する。『バキ』最凶死刑囚編に登場するドリアンや柳龍光、ドイルなどがそうだ。しかし、この3人は素手でも充分強く、暗器だけに頼っているわけではない。暗器に特化した戦い方をするという観点で見てみると、実は本部以蔵こそが作中で最強なのではないだろうか。
本部は、初期の頃は冴えない格闘家というイメージが強い。その理由は単純で、素手での戦いではあっさりと負けてばかりだからだ。だが、本部がその真価を発揮できるのは、何でもありの実戦なのだ。
本部はありとあらゆる武器の使用に長けていて、素手の格闘では絶対に勝てない相手にも、武器を使うことによって凌駕できる力量を持っているのだ。実際にジャックハンマーとの路上での一戦では、隠し持った武器を使用することでジャックを捕縛することに成功し、「生殺与奪の権を先に手にした者 それが動かぬ勝利者だ」とシビれる台詞を残している。また、刃牙には会話の最中に不意打ちで背後を取り、短刀を首筋に当てて「いつでも殺せる」ことをアピールしている。そうしたことから見ても、本部が隠れた実力者であることは間違いない。一時は作中での解説者としての役割に甘んじていたのが嘘のようだ。
そして本部の快進撃はとどまることを知らず、『刃牙道』では、誰も止められない宮本武蔵にも臆することなく挑戦する。暗器による不意打ちの連続で攻め立て、武蔵の斬撃からは防具によってかろうじて致命傷を逃れつつ、最終的には締め上げて失神させることに成功する。これには誰もが「あの本部が武蔵に勝った?」と目を疑ったはずだ。
本部のすごいところは所有している暗器の種類と数、それを自在に使いこなすところだ。状況や相手に応じて武器の使用法を変えられるからこそ、素手で戦う格闘家に負けない自信があるように見える。
■格闘技の試合なのに次々に繰り出される暗器!『修羅の門』ブラッド・ウェガリー
川原正敏氏による『修羅の門』(講談社)は、多士済々たる格闘家たちに、古武術・陸奥圓明流を修めた主人公・陸奥九十九が戦いを挑むというストーリーだ。そのため、空手家、ボクサー、キックボクサー、プロレスラーといった多種多様な格闘家が登場するが、その中には、一風変わった格闘家もいる。
グラシエーロ家がブラジルで主催する異種格闘技トーナメント、ヴァーリ・トゥードの参加者として現れたブラッド・ウェガリーがそうだ。肩書は傭兵で、他の格闘家と比べても技術や体格が優れているようには思えない。しかしその一方で、ただならぬ雰囲気を誰よりも漂わせてもいた。九十九と対決することになった準々決勝では、明らかに何かを狙っているという予想に違わず、右手に細い釘状の暗器を仕込み、拳を振るう。それによって九十九は拳を避けているのに切り裂かれるという事態に陥った。しかも、審判を含め周囲の人間は誰もブラッドが暗器を持っていることに気づいていない。
そのままブラッドは暗器を九十九の腹部に突き刺すが、筋肉を収縮させることで肉体に突き刺さる物体を防ぐという陸奥圓明流「金剛」によって絡め取られてしまう。すると今度は、服の首元に仕込んだワイヤーを九十九の首に引っ掛けて締め上げる。結局はそれも「金剛」で破られてしまうのだが、“何でもあり”とはいえここまで徹底した暗器による攻撃を仕掛けてくるのには感心すらしてしまう。しかも、それによって“何でもあり”でも九十九が強いのだ、ということの証明にもなっており、ストーリー上でも重要なキャラクターだったと言える。