■宮崎駿のルパンは貧乏な義賊、モンキー・パンチのルパンはリッチなエゴイスト

 筆者はモンキー・パンチさんの担当編集者として長らく現場に立ち会った。だいぶ以前だが、生前のモンキー・パンチさんに「前にサイン会で、ファンの人に“クラリスを描いて下さい!”って頼まれちゃってね、困ったよ(笑)」と、ファンとのやりとりの話を伺ったことがある。

 ご存知の方も多いかとは思うが、『カリオストロの城』に登場するキャラクターは、宮崎駿監督によって生み出されたもので、モンキー・パンチの漫画のキャラクターではない。

 もちろん、ルパン三世、次元大介、石川五ェ門、峰不二子、銭形警部は原作漫画のキャラクターなのだが、それでもかなり味つけが異なるのだ。

 中でも特徴的なのが、宮崎駿の描くルパン三世一味は貧乏だ、ということ。

『カリオストロの城』でも随所に描かれているが、ルパンと次元の愛車・フィアットのスペアタイヤは丸坊主だし、ルパンは100円ライターを愛用している(しかもオイルが切れている)。次元はシケモクに手を出すし、一味の張り込み中の食事はカップ麺だ。

 貧乏だけど、盗みを楽しむ自由人。そしてもちろん、薄幸の美少女の味方である。

 一方で、原作漫画のルパン三世は、「ルパン帝国」という犯罪組織のボスであり、盗んだお宝の財宝庫もあちこちに持っているリッチな盗賊だ。「悪人と警察官は殺しても良い」というポリシーを持ち、天才的な頭脳と身体能力で、不可能と思われた犯罪をやすやすと成し遂げる。あまり情に流されることはなく、自分が面白いと思ったことは必ず実現し、欲しいと思ったものは必ず手に入れる、究極のエゴイストなのだ。

 そう書くと、原作のルパン三世は「何だかイヤな奴だな」と思われるかも知れないが、原作漫画の持つ面白さは「悪人と悪人の知恵比べ」「どんでん返しのある意外な結末」がメインで、ルパン三世より悪どい連中が仕掛けた罠や絶体絶命な状況を、知恵とトリックで切り抜けていくところが醍醐味だ。

 敵は悪人だからえげつない罠をしかけてくるし、それに対抗するルパン一味も善人ではいられない。ずっと善人なのは銭形警部ぐらいである。

 そして、基本的に知恵の戦いなので、スタイリッシュでカッコいいし、泥臭くない。『カリオストロの城』とは違うところも多いけど、本来の『ルパン三世』はそういう漫画だった。

■「モンキー・パンチ」は一年限定だった!?

『ルパン三世』の作者であるモンキー・パンチは、北海道出身の日本人である。20歳で単身上京し、アルバイトをしながら同人活動や貸本漫画で漫画を描き続けた苦労人で、1967年の30歳当時に『ルパン三世』の連載が始まり、いきなりの大ヒット作となった。

 わざわざ「北海道出身の日本人」と書いたのは、『ルパン三世』連載当初から、その無国籍な雰囲気、それまでの漫画・劇画とは明らかに異なる描線・ストーリー運びなどから、「モンキー・パンチ外国人説」が囁かれていたからだ。中には、「米軍基地から脱走したアメリカ人で、日本で暮らしていくために『アクション』に原稿を持ち込んだ」などという細かい設定の噂もあったらしい。

 実際のところは、モンキー・パンチの名付け親は、『週刊漫画アクション』の清水文人編集長(当時)。連載開始前に「ペンネームをモンキー・パンチにしろ」と言って、そのまま決まってしまった。モンキーパンチさんによると、「モンキーなんて、本当は嫌だったから“その名前は最初の一年だけにして下さい”って言ったんだけど、そのまま変えるチャンスを逃してしまった」そうだ。

『ルパン三世』は長い歴史を誇る作品なので、色々な作家による多種多様なルパン三世が存在する。『カリオストロの城』を観たあとは、原作漫画の世界もぜひ堪能してほしい。

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