主人公の八面六臂の活躍に特別な才能を感じ、鍛えたり、ライバル視したり、一目置かれたり......スポーツをテーマとした少年漫画では必ずと言っていいほど見られる王道展開である。
そんな中でも重要になるのが、他の誰にも見つけられなかった、埋もれた才能を発掘するキャラクターたち。彼らは周囲のモブたちの評価に流されず、その才能をひたすらに信じて、主役を表舞台に引っ張り出した。そんな類まれなる慧眼を持つキャラクターを、3人ピックアップして紹介したい。
■主人公にとっての“蜘蛛の糸”になった『アオアシ』福田達也
まずは昨年4月よりNHK Eテレでアニメ化もされた小林有吾氏によるサッカー漫画『アオアシ』から。作者の小林氏は過去に自身のブログで「未熟な葦」という意味も含んでタイトルをつけたと語っており、主人公・葦人の才能を見出した福田達也は物語を語る上で欠かせないキャラクターだ。
大事な試合中に暴力事件を起こして退場し、スポーツ推薦も取り消しになるという散々な結果になっていた葦人。そんなときに声をかけたのが、東京エスペリオンFCのユース監督・福田達也だった。
福田は葦人に、トラップから素早くボールを足元に収めて走り出す「コントロールオリエンタード」という技術を教えるが、基礎中の基礎になるその技の練習に葦人は苦戦する。地元の高校では頭一つ抜けていても、ユースレベルでは技術もフィジカルもいまひとつ。福田も「当てが外れたかな。このレベルではさすがに厳しい」と諦めかけるが、技術もない、戦術も知らない葦人が、なぜか試合中ずっとこぼれ球を拾い、それが偶然ゴールに繋がることが気にかかっていた。
そこで、特に目を惹いたゴールシーンについて尋ねたことで、葦人がフィールド上22人、全ての選手の位置を把握していたことを知る。そして福田は後日、葦人を東京シティ・エスペリオンFCのユースチームにスカウトするのだった。
『アオアシ』の主人公・青井葦人は、主役としてはいまいち華がなく、特にサッカーが上手いわけでも、頭が良いわけでもない。努力だけが取り柄の泥臭いキャラクターとして描かれている。しかし、周りのキャラクターが魅力的で華やかな分、彼の才能が輝く瞬間がコントラストとなって読者を惹き付ける。
中でも「福田達也」は、登場するだけでワクワクするような、いわゆる“メンター”として頭一つ抜けた存在であり、そんな福田に「絶大な期待をよせられている」ということが、葦人の主役としてのキャラクター性に華を添えている。この二人の関係性が、『アオアシ』のストーリーをより魅力的に感じさせてくれるのだ。