1961年に放送開始という長い歴史を持つNHKの音楽番組『みんなのうた』。テレビ放送では、アニメーションなどを用いた曲のイメージにあわせたPV映像が流れるが、曲自体の美しさの一方で「メトロポリタン美術館」や「月のワルツ」「まっくら森の歌」など、映像が怖いと語り継がれている作品は多い。今回は、PVがなぜかとんでもなく怖かった「みんなのうた」をいくつか紹介したい。
まずは1998年放送の「青天井のクラウン」。ソウル・フラワー・ユニオンによるジャズ調の楽曲で、歌詞はすべての大道芸人に捧げられているようで、PVでもピエロが主人公。このピエロをメインにした映像がなんとも不気味でインパクトのあるものだった。
目に鮮やかすぎるほどの色彩使いに、ニコニコと笑う、時おり異常に手が長く伸びるピエロの姿が単純に怖い。若干幼さを感じさせるタッチのイラストは子どもの描く絵に意図的に似せたようで、それがまたシュールで不気味さを増幅させている。
ピエロを怖いと感じる「道化恐怖症」は世界でも広く認知されており、フィクションでモンスターとして登場する作品も多くある。そうしたピエロに恐怖を感じる人にとってこのPVはまさにトラウマものだろう。しかしこの楽曲が大人になってからしみじみ良い作品だと感じる人も多い。当時怖いと思っていた人も、あらためて聞いてみてはいかがだろうか。
怖い『みんなのうた』では、1986年に放送された斉藤由貴による「ポケットの中で」を挙げる人も多い。悲しい恋を歌った、斉藤の優しい歌声が印象的な楽曲だ。
映像は、全編にわたって暗いブルー系が基調となっており、時おり挟まれる紫や赤色のグラデーションのカラーが美しい、どこか幻想的で寂しさを感じるもの。真夜中の世界で遊ぶ主人公の少年は黒いシルエットで表され、意中の人と思われる、人形のような少女に恋しているようだ。
この映像を見た多くの人が「怖い」と感じるのは、少年が浜辺で泣いているときに背景に少女の顔が大きく映し出されているためであろうか。水平線の向こうから頭を出した巨大な少女が涙を流し、手前でも少年が手で顔を覆って泣いていると思われる、なんだか悲しい気持ちになるカットだ。
この映像を手がけたのは『アンパンマン』の作者で知られるやなせたかし氏である。やなせ氏はこの楽曲を含めて「みんなのうた」には計11曲を作詞や映像で携わっている。歌詞の最後が切ないこともあって、いっそう悲壮感が漂う楽曲となっている。
最後は2003年に放送された椎名林檎の「りんごのうた」。シュールな映像が「怖い」「トラウマ」と評判だ。
同曲は人間に憧れるリンゴの気持ちを歌った歌なのだろう。リンゴに顔が書かれて擬人化されており、少しずつ人間たちと仲良くなっていく様子が描かれる人形劇となっている。
なぜか大人の男女がリンゴをかじって良い雰囲気になり、そのままカーテンが閉まるというアダルトな空気を感じさせるシーンもある。そして最後には主人公のリンゴが、木になっているリンゴを人間たちに与えてみんなで仲良くダンス。ドヤ顔のリンゴの顔のアップで曲が終了する。どこか不気味で、主人公がリンゴだからこそ感情がこちらへ伝わりづらいシュールさが記憶に残る楽曲だ。
しかし子どもの頃は不気味さが怖いと感じていたが、どれも大人になった今聞くと、グッと心に迫る渋い名曲ばかりだ。人生経験を積んだ今ならば、当時とは違った感想を持つかもしれない。