■血筋を守るためだけに「将軍」という名の人身御供にされた女たち
また2023年1月からNHKでテレビドラマ化され、同年秋にはSeason2が放送予定のよしながふみ氏による漫画『大奥』も世代を継いで語られる作品だ。
同作は謎の疫病で男性の数が激減したことにより、日本社会の根幹を女性が担うこととなった騒動や悲劇を江戸城・大奥を中心に描いた歴史改変SF時代劇。
本作で描かれる人が背負う業や歪んだ親子愛、閉ざされた大奥で起こる悲劇、踏みにじられた尊厳の数々は読んでいて息苦しさを感じるほど。
物語は八代将軍・徳川吉宗の名を継承した元紀州藩主の娘・信(のぶ)から始まる。吉宗といえば、歴史の授業や時代劇『暴れん坊将軍』でもお馴染みの質素倹約や華美な「大奥」縮小といった改革でも知られているが、本作でもこれらの出来事が「男女逆転」した形で描かれているのがおもしろい。吉宗は大奥の成り立ちなどを記した「没日録」を読み、三代将軍・家光までは男が国を治め、四代将軍・家綱(千代姫)から女将軍になったこと、「徳川」の血を守るためだけに「大奥」が作られたことを知るのだった。
三代将軍・家光(千恵)から幕末に至るまで何世代もの女将軍が登場し、その時々で「江島生島事件」「赤穂浪士」「天明の大飢饉」など実在に起きた事件・人物が織り交ぜられながら時代と物語がすすんでいく。そのため、読んでいるうちに女将軍に違和感を感じなくなり「なぜ、将軍が女性ではダメなのか」などの感情が芽生えるほどになった。大胆な解釈と改変に加え、奥深い心理描写が魅力の本作。まさに「大河ドラマ」と呼ぶにふさわしい作品だ。
長い世代を描く作品だからこそ生まれる壮大さがあるこれら作品。アニメやドラマ化を機にさらに多くの読者層開拓に繋がるのは間違いなさそうだ。