読んでなくても知っている? 冨樫義博氏が生み出した『HUNTER×HUNTER』の知名度抜群のセリフたちの画像
『HUNTER×HUNTER』Vol.41 キメラアント編17

 1998年に『週刊少年ジャンプ』(集英社)で連載開始され、度重なる休載を挟みながら現在も連載中の冨樫義博氏による大人気漫画『HUNTER×HUNTER』。主人公のゴン=フリークスが、父親であるジンの職業・ハンターに憧れ、自身もハンターとなり仲間とともに旅をする物語だ。

 コミックスは現在第37巻まで発売されており、「ハンター試験編」「グリードアイランド編」「キメラ=アント編」などそれぞれの章で新キャラクターや新たな世界観が登場し、読者を飽きることなく楽しませてくれている。

 しかし、先述のような休載期間の長さから「いつか完結したら読んでみよう」と二の足を踏んでいる人も多いのではないだろうか。つい先日も、連載再開に向けて最新話である第401話が完成したことを冨樫義博がツイートして大きな話題となったが、「果たして本当に完結するのだろうか?」とファンですら不安になってしまう。それでも、一種のカリスマ性とも呼べる作品の魅力は輝いており、そのインパクトの強さから作中のセリフがネットミームのように使われることもしばしばだ。これらは『HUNTER×HUNTER』を読んだことがない人でもたびたび目にする機会があることだろう。

 そこで今回は、『HUNTER×HUNTER』を読んだことがない人でも聞いたり見たりしたことがあるに違いない、同作の有名なセリフやシーンを紹介したい。

■ザコキャラらしからぬ自信と余裕を見せつけた「オレでなきゃ見逃しちゃうね」

 最初に紹介するのは、単行本第11巻に登場する「おそろしく速い手刀/オレでなきゃ見逃しちゃうね」というセリフだ。おそらく『HUNTER×HUNTER』のセリフの中でも最もネットミーム色の強い使われ方をしているものではないだろうか。

 このセリフの主は「ヨークシン(幻影旅団)編」に登場する名もない暗殺者のキャラクターで、占い師・ネオンが急に倒れた様子を捉えた監視カメラを再生した際、隣にいた謎の男(実は幻影旅団団長のクロロ=ルシルフル)が彼女を手刀でひと突きし失神させたのに人知れず気が付き、モノローグとして発する。しかしながら彼は、おそらく高い能力を持っていたにも関わらず、この後クロロの念能力を前に敗北し、死亡してしまう。

 いわゆる「かませ犬」キャラである彼だが、その短い登場シーンにも関わらず「オレでなきゃ見逃しちゃうね」という自信に満ちたフレーズのインパクトの強さから、このセリフとともに読者の記憶に残り、作中でも人気のキャラクター扱いされている。

■絶望的なシチュエーションが多くの人のトラウマとなった「あっあっ」

 続いては、現在までで最も長い期間描かれていた「キメラ=アント編」(単行本第18巻~第30巻)から、作中でも屈指のグロテスクなシーンで登場したセリフを振り返りたい。

 序盤の「ハンター試験編」で初登場したポックルというキャラは、晴れて試験に合格しハンターライセンスを獲得するものの、そこから長きにわたって出番はなかった。そんな彼が再登場したのが「キメラ=アント編」だった。

 ポックルはキメラアントの調査をしていた際に襲撃を受け、その後も死体の山に隠れてなんとか生きながらえたものの、敵であるネフェルピトーに捕えられてしまう。

 裸にされ頭をかち割られたポックルは、ピトーから針のようなものでむき出しの脳を直接刺激され、念についての情報を強制的に吐かされるという拷問を受ける。このときポックルが漏らす言葉が「あっあっ」だ。必要な情報を引き出され、もう意思も持たない彼は結局食用として処分されてしまった。

 脳を直接いじられてしまうというシチュエーションもさることながら、言葉というよりその刺激に対する生理的反応として発している声であるということがさらに恐ろしさを際立たせていて、それを無邪気にやってしまうピトーには底知れぬ残酷さを嫌というほど感じてしまう。多くの読者にトラウマを植え付けたシーンだ。なお、この様子は第19巻に掲載されている。

■サンシャイン池崎も「音を置き去りにした」

 最後に、ハンター協会会長のネテロ会長ことアイザック=ネテロの強さがわかる「音を置き去りにした」という表現を紹介しよう。

 強化系能力者のネテロ会長は少なくとも100歳以上の高齢だが、40代の頃から、自身の肉体の衰えと武道家としての才能の限界を感じ、山に籠って毎日1万回の「感謝の正拳突き」を始め、それを日課として過ごすようになった。

 当初は一連の動作を終えるのに18時間以上が掛かっていたが、数年経ち山を降りる頃には「感謝の正拳突き」は“音を置き去りにする”、つまり音速を超越するほどのスピードとなったことが第25巻で明かされる。

 この「音を置き去りにする」という表現からだけでもかなり強いことがうかがえるネテロ会長。肉体的にはピークを越えてから鍛練を積んで高みへと至った、そんな彼の生きざまに影響を受けた人は多い。たとえば、お笑いタレントのサンシャイン池崎が2021年に自身のYouTubeチャンネルの登録者数が10万人を突破したことを記念して、ネテロ会長のコスプレをして「感謝の正拳突き」ならぬ「感謝のジャスティス1万回」を果たしたこともあった。そのコスプレの完成度の高さからもネテロ会長と『HUNTER×HUNTER』への愛が感じられ、10時間を超える生配信で本当にジャスティス1万回を完遂してしまったのも驚きだった。

 このほか、主人公のゴンの体が急に大人に成長し、髪の毛が「怒髪天をつく」という言葉さながらに伸びる覚醒シーンなど、本編の内容を知らなくても誰でも見聞きしたことがあるというシーンは『HUNTER×HUNTER』にはかなり多い。未読だという人も、ネットミームとして愛されるこれらのシーンが、本当はどんなシーンなのか、ぜひその目で確認してみてはどうだろうか? そうしたシーンの断片だけで知った気になっているのはもったいないほどの正真正銘の名作であることは間違いないし、読まないままでいるのは人生の損失といっても過言ではない。何より、「完結してから読む」だと、それが何年先になるかもわからないので……。