2023年で連載50周年! 手塚治虫『ブラック・ジャック』でBJが見せた“意外にも親しみやすい”一面の画像
少年チャンピオン・コミックス『ブラック・ジャック』第17巻 (手塚プロダクション)

 手塚治虫の『ブラック・ジャック』の主人公、ブラック・ジャック(以下BJ)の特徴といえば、半分白髪の髪に大きなキズのある顔、季節問わず身につけている真っ黒いコート、鋭い眼光と引き結ばれた口……。そんな見た目にくわえ、つらい過去のエピソードや人里離れた一軒家で生活しているという事情から、彼をシリアス一辺倒なキャラだと思う人は多いことだろう。

 しかし、BJはただクールなだけではない。意外とコミカルなところがあるのも、また彼の魅力なのだ。実際に本編を読んでみるとキャラ崩壊はしょっちゅうだし、自らボケることも少なくない。ただしアニメではシリアスな面が強調されるなど、メディアによってもキャラの描かれ方には違いがあるようだ。そこで今回は、BJが原作漫画で見せた親しみやすい一面について紹介していく。

※なお記事内に出てくる巻数は、すべて秋田文庫版のものを指す。

 

 そもそもBJは、意外と表情豊かな人物だ。歯をむきだしにして怒りを表明するとき、ピノコが作ったとんでもない料理を口にしたとき、不意の出来事にきょとんとするときなどの表情は、クールな第一印象とはほど遠い。

 ちなみに筆者のお気に入りは、2巻収録「三者三様」で警察から怪我人の手術をするよう言われたとき、「なにしろ無免許医なんでねえ」と肩をすくめたときのBJだ。絶妙にムカつく顔をしているので、気になる人はぜひチェックしてみてほしい。

 また、とある事情でカラシをひと瓶食べさせられたり(14巻収録「小さな悪魔」)、“熱さましといたみどめと[中略]虫くだしをまぜてシロップでわったの”を飲むことになったり(15巻収録「コレラさわぎ」)と、おもにピノコのせいで散々な目に遭ったときには、予想をはるかに上回る壊れっぷりを見せていた……。

 ここまで紹介したのは一応理由があってのものだが、それ以外に意味もなくお茶目な表情をすることも。たとえば「U-18は知っていた」(1巻収録)では、コンピュータに本人確認を要請された際、なんともいえないニヤケ顔と謎ポーズを披露している。またスペインのとある街を舞台にした「道すがら」(8巻収録)では、なぜか散歩中に出会ったヒツジだかヤギだかにあっかんべーをして絡んでいた。

■実は芸達者…!? ときに茶番も演じるBJ

 BJは必要とあらば、患者のために茶番を演じることだってある。なかでもとくに印象的なのは、16巻収録「にいちゃんをかえせ!!」。

 このエピソードでBJの患者となるのは、ヒーロー番組で悪役を演じる青年・タカオだ。タカオにはユキオという小さな弟がいるのだが、彼は兄が大好きな一方、悪役ばかりやっていることに複雑な思いを抱いていた。

 そんななか、タカオが病気になりBJのところで入院することになるのだが、ユキオはBJをその見た目から“魔像軍団の大首領”と勘違い。無事に手術を終えタカオを自宅まで送り届けたBJは、その話を聞いていいことを思いつく。

 なんとBJはユキオの前で悪役のように振る舞い、タカオにやっつけられて逃げ帰るという演技をノリノリでして見せたのだ。そうすることで仕事で悪役ばかり演じるタカオを“正義の味方”にしてあげるという、なんとも粋な計らいである。

「ドラキュラーッ」と言いながらポーズを決めたり、「やられたーっ」と派手に倒れたりと、演技がやや安直でダサいところも逆に良い。

 また孤高のイメージが強いBJだが意外と付き合いはよく、4巻収録の「虚像」では同窓会に出席していた。それも中学や高校でなく小学校の同窓会なのだから驚きである。

 さらにこのときBJは、同級生たちの“突然学校をやめてしまった恩師・志摩先生を呼んでもう一度卒業式をしよう”という計画に参加し、本人を探し出して連れてくることまでしている。

 この「虚像」はいろいろな意味で味わい深く、『ブラック・ジャック』で特に忘れがたいエピソードのうちのひとつだ。同窓会で微妙に浮いているBJも見どころのひとつ(?)だが、ストーリーのほうもじっくり楽しんでみていただきたい。

 

 冷酷と思いきや優しかったり、堅物と思いきやお茶目だったりと、意外なギャップで多くの読者を惹きつけてきたBJ。細かい描写にもその魅力があらわれているため、何度読み返しても新たな発見があって面白い。こうして記事を書いている間にもまた、『ブラック・ジャック』を第1巻から読みたくなっている自分がいる……。