女性向け漫画には、たびたび心に突き刺さるセリフが登場する。とくに女性が恋から覚め、現実を顧みたときに口にするセリフには、思わず拍手を送ってしまいたくなるほど心情を的確に表したセリフが用いられていることが多い。
そこで今回は、女性向け漫画の登場人物たちが放った、「恋が冷めた瞬間」の名セリフをご紹介しよう。
■恋から覚めた瞬間の表現が秀逸!『ハッピー・マニア』
『働きマン』や『さくらん』など、数々のヒット作をもつ安野モヨコ氏。彼女の描くリアルな女性像は多くの女性たちの支持を得ているが、なかでも1995年から『FEEL YOUNG』(祥伝社)で連載された『ハッピー・マニア』に登場する主人公・重田加代子(シゲタカヨコ)の姿に勇気をもらったファンは多いと思う。
本作では“理想の恋人”を求めて恋にがむしゃらに奮闘する彼女の様子を通じて、恋愛中に揺れ動く女性の心情が見事に描かれていた。
とくに、コミックス5巻に収録されている「にわかに思考回路が接続され 平常心にもどる瞬間 あたしはこの人のどこが好きだったの」というセリフは秀逸だ。
恋愛とはまるで夢を見ているようだと表現する人もいるが、確かに恋をしているとどこか現実味がない感覚に陥ることがある。ときに理性や常識を吹き飛ばしてしまう威力が恋愛にはあるのだ。
重田はそんな“恋愛トランス状態”において、ふと我に返り、恋に冷めた。安野モヨコ氏による的確な言葉選びによって、彼女の恋の熱量がまさに冷めた瞬間を感じることができる名セリフだと思う。
実際、恋愛に冷めて正気に戻ったとき、それまでの“恋は盲目状態”を痛感した経験のある女性は多いと思うが、そんな女性たちの共感をおおいに得たことだろう。
■イマドキ女子のリアルなセリフ!『東京タラレバ娘 シーズン2』
ドラマ化も果たし、30代の女性のリアルな日常を描いた『東京タラレバ娘』。東村アキコ氏によって『Kiss』(講談社)で連載された本作は、2019年からは同誌で新シリーズが連載された。
本作では、仕事や恋愛、結婚といった“年頃の女性”が抱える悩みが描かれているが、新シリーズとなる『東京タラレバ娘 シーズン2』では、元号が“令和”に変わったことから夢を探すために孤軍奮闘する30歳のフリーター・廣田令菜の姿が描かれている。
30代の女性が直面するさまざまな問題を、お馴染みの“東村アキコ節”で描いた本作。作中には、イマドキの女子ならではの表現がされたセリフが登場している。
コミックス6巻で、意中の相手・よしお1号と職場の先輩・森田昭子とともにアウトレットモールへ出かけた令菜。そこで自分が席を外している間に、よしお1号が森田へ高額のプレゼントを贈ったことを知ってしまう。
「欲しい物手に入れるチャンスに 遠慮なんかしてられるか」と悪びれもせずに言う森田の様子にモヤモヤする令菜。その後もいろいろ考えつつ「分からないけどこれだけは分かる 今日の私この人にハマってない」と、心のうちを吐露するのだ。
結婚に意気込む彼女だが、意中の相手・よしお1号に自分が“ハマってない”ことを悟り、また、彼が見せた、気がある相手と気がない相手への態度の違いをまざまざと見せつけられた結果行き着いたこの心情。
好きな相手に自分が“ハマってない”ことがわかってしまう悲しい瞬間ではあるが、令菜のこの表現がイマドキ女子のリアルな感情をあらわしているような気がした。それにしても、胸が締め付けられるようなシーンだった……。