■仙道彰が見せた、牧との名勝負

 仙道は、陵南のエースで、オールラウンダーとして活躍しているキャラクターだ。攻守ともに天才として類まれなセンスの持ち主であることが随所に描かれている。

 代名詞ともいえる「さあ、いこーか」や名台詞「まだあわてるような時間じゃない」にあるように、仙道もまたマイペースで冷静な描写が多い。

 そんな仙道が勝負を仕掛けたのは、神奈川県予選決勝リーグでの対海南大附属戦。試合時間が残り数秒しかなく、2点差で陵南が負けていた状況で、ボールを奪った仙道が速攻を仕掛ける。しかし牧に追いつかれてしまい、1対1のシーンとなった。

 同点に追いついても陵南には延長戦で戦う力が残されていないことを悟っていた仙道。その数秒で仙道が頭に描いたシナリオは、わざと牧に追いつかせ、ファウルをもらいながらシュートを決め、さらにフリースローを決めて逆転勝ちするというものだった。

 このシナリオに気づき、シュートブロックをしないことを選択した牧もまたすごい。神奈川ナンバーワン争いに相応しい2人の、熱くてクレバーなワンシーンだ。

 以上、『SLAM DUNK』で普段は冷静な男たちが勝負しにいった3つの瞬間を紹介した。深津と牧は現キャプテンで、仙道も魚住引退後にキャプテンに任命されたため、チームを導く立場にある3人だ。そのため、彼らの下した判断が、チームや試合の流れにとって重要な分かれ道になっていたこともあるだろう。

 そんな彼らが意を決して勝負しにいった瞬間、何を考えて勝負に臨んだのか。原作は1996年に終了しているが、単行本を読み返すたびに前回読んだときとは違うセリフや表情が気になってしまうという読者は多いのではないか。それだけ『SLAM DUNK』には、言葉では言い表せない濃密な時間が描かれているということなのだろう。

  1. 1
  2. 2