『ドラえもん』ひみつ道具でビジネスチャンスをゲット!? のび太の懲りない失敗エピソード3選の画像
てんとう虫コミックス『ドラえもん』第1巻(小学館)

ドラえもん』のひみつ道具は、現実ではできないことをかなえてくれる、まさに夢のアイテム。「これは上手く使えばお金儲けに使えるのでは?」と考えてしまったことがある人も多いのではないだろうか。そしてまた、そんな読者の思いは、作中でのび太が実践してくれている。『ドラえもん』のエピソードには「のび太がひみつ道具を使ってお金儲けに走って失敗する」パターンがたびたび登場するのだ。

 そこで今回は「ひみつ道具でお金儲けをしようとするのび太の懲りないエピソード」を3つ紹介したいと思う。それぞれでドラえもんの対応も異なっていて、ちょっとしたアイディアがビジネスチャンスにつながるというチャレンジを楽しく描きつつ、勇み足で失敗することを戒めるものにもなっているのが興味深い。

■あなたのお悩み解決します! ひみつ道具をフル活用して事業化

 最初に紹介するのは、てんとう虫コミックス第37巻に収録されている「なんでもひきうけ会社」。のび太は、ひみつ道具をフル活用し、依頼人の悩みを請け負って解決することで対価を得ようと提案する。しかしドラえもんは全面拒否。仕方なくのび太はスペアポケットをこっそり拝借して、しずかちゃんに社長秘書になってもらい、ドラえもんには内緒で事業を始める。

 のび太が勝手に作った依頼募集のビラを見て怒ったドラえもんは必死に阻止しようとするが、さすがにのび太もそれは察知していて「ガードマンロボット」を使って逆にドラえもんを追い出してしまう。しかし最終的には、スペアポケットと自らの四次元ポケットがつながっていることを思い出したドラえもんが、それを利用してのび太を確保し、事業を辞めさせることに成功した。

 そもそもひみつ道具を使うのに、その提供者であるドラえもんの協力を得られなかった時点で失敗するのは目に見えていた。一方で、依頼人の悩みを的確に解決できるひみつ道具を出している(割れた壺の修復には「復元光線」、広い庭の草むしりには「インスタントロボット」など)点では、さすがにユーザーとして誰よりもひみつ道具を使ってきた経験が活きている。

 また、ひみつ道具の利便性を自分が独り占めするのはもったいない、もっとたくさんの人に使ってもらいたい、という公共の利益を考慮した着眼点は悪くなく、のび太の意外な商才が垣間見えるエピソードだとも言えるだろう。

■「三輪飛行機」で航空会社を立ち上げ!10円から始める空の旅

 続いては、てんとう虫コミックス第28巻に収録されている「のび太航空」。突然、将来はジャンボジェットのパイロットになりたいとのび太が言い出し、ドラえもんは足でこぐ飛行機「三輪飛行機」を取り出す。操縦をマスターしたのび太は、将来と言わず、すぐにパイロットになると言い、乗客を募集し始める。最初はその見た目から飛行機ごっことバカにされたが、脱走したしずかちゃんのカナリアを捕まえたり、スネ夫に町内を遊覧飛行させたりと、それなりの成功を収める。しかし、その直後に飛び込んできた乗客は、母ちゃんに叱られできるだけ遠くへ逃げたいジャイアンだった。

 ジャイアンは、ホンコンへのフライトと弁当、小遣い100円を要求し、飛行機をハイジャックする。なんともささやかな要求ではあるが、逃げ場のない空の上では大ごとだ。ジャイアンの母が現れて説得(説教)するも効果はなく、ジャイアンは花火をばらまくという危険行為に。そこでトイレを我慢していたのび太がついに限界に達し、操縦桿から手を離してジャイアンの顔に向けて放尿してしまい、飛行機は墜落するのだった。しかし、正直なところ、墜落した原因はジャイアンにあるため、のび太に落ち度は感じられない。

 むしろ、のび太の論理は的確だったとさえ言える。飛行機ごっことバカにされた際、ドラえもんは「だから気が進まなかったんだ!」と腹を立てるが、のび太は「どんな事業でも始めからうまくいくわけがない。この飛行機のすばらしさがわかればお客はつめかけてくるよ」と、スタートアップに必要な確固たる信念を感じさせる発言でドラえもんを黙らせている。

 飛行機の思わぬ墜落によって頓挫してしまったがビジネス自体が失敗したわけではなく、のび太の着実な経営論が光る名エピソードだ。

■エネルギー問題を解決!誰もが喜ぶ究極のエネルギー

 最後に、てんとう虫コミックス第33巻に収録されている「地底のドライ・ライト」。石油がいずれ枯渇してなくなってしまうかもしれない、というエネルギー問題に焦点を当てたエピソードだ。ママからそれを聞いて恐れおののくのび太に、ドラえもんは「ドライ・ライト」を取り出してみせる。太陽光線のエネルギーをドライアイスのように固めた物質で、熱と光を有し、ドラえもんがやってきた22世紀では石油の代替資源として使われているのだ。

 その便利さを目の当たりにしたのび太が金儲けを提案し、ドラえもんが反対するところまではいつも通り。しかし、のび太は「儲かればどら焼きが食べ放題」とドラえもんをそそのかし、事業開始に成功する。

 のび太よりも、むしろどら焼き食べ放題に目がくらんだドラえもんが積極的に金儲けに走るのがおもしろい。最初はなかなか売れないドライ・ライトだが、ドラえもんは試供品を配布することで認知拡大を図る。しかし「翌日から100グラム100円」と告知していたにもかかわらず、あまりの人気ぶりにドラえもんは急遽前倒しして代金を取り始める。しかも、その日のうちに100グラム500円にまで値上げする暴挙に出てしまい、これにはさすがののび太もびっくり。

 あまりの売れ行きの良さに有頂天になったドラえもんは、うっかりドライ・ライトの地下鉱脈への出入り口を閉じ忘れ、すべて溶け出して消失してしまう。予期せぬアクシデントで夢破れたドラえもんが「フニャ……」となんとも言えないしょぼくれた表情を浮かべて、本エピソードは幕を閉じる。

「ドライ・ライト」にビジネスチャンスを見出して事業化をけしかけたのはのび太だが、それが失敗に終わってしまったのはドラえもんのうっかりミスが原因で、のび太はむしろ独占供給を盾に価格のつり上げを図るドラえもんを止めに入るなど、適切なバランス感覚を発揮している。

 自らビジネスを興すより、もしかしたら一歩引いて他者に助言するコンサルの適性があるのかも?

 のび太はドラえもんのひみつ道具を借りてお金儲けをもくろんではいつも失敗するイメージだが、結果としてそうなってはいても、場面によっては意外なビジネスセンスを感じさせる。

 就職できなかった未来ののび太は自分で会社を設立して社長となり、結局はその会社を倒産させるが、原因は火事というアクシデントによるもの。また、会社の設立と火事が起きた年代から、少なくとも5年間は経営を維持していたと考えられ、のび太の経営手腕に問題があるとは必ずしも言い切れないのだ。何よりも、今回紹介した3つのエピソードのように、ひみつ道具を使ってのお金儲けにたびたび失敗しながらも懲りずに何度もチャレンジする姿勢が自然に備わっていることこそ、実は最も起業向きの性質なのかもしれない。