■父親を殺された少年が虎視眈々と仇相手を付け狙う!

 荒くれ者ぞろいなヴァイキングの生き様を描いたのが幸村誠氏の『ヴィンランド・サガ』である。

 アイスランドのとある村に住むトルフィンは強い戦士に憧れ、はるかな大地「ヴィンランド」を夢見る少年であった。だがある日、トルフィンは父・トールズが乗る船に忍び込み、その船がアシェラッド兵団からの襲撃を受けてしまう。そして息子を人質にとられたことでトールズは殺されてしまうのだった。

 目の前で父親を殺されたトルフィンだったが、彼の「仇討ち」方法はとんでもなかった。幼い彼は父親の仇であるアシェラッドの命を狙うため、アシェラッド兵団に加わったのだ。子どもであろうと容赦のないアシェラッド兵団の中で、トルフィンは命がけの戦いを重ね、手柄をあげることで褒美としてアシェラッドへの一騎打ちを求める。

 そんなトルフィンにとっては憎むべき仇のアシェラッドだが、アシェラッド兵団が仕えたデンマーク王家の第二王子・クヌートの手で殺害される。そして意図せず他者の手により「仇討ち」が成されてしまったトルフィンは錯乱し、王族であるクヌートに襲いかかってしまうのだ。

 筆者は作中でアシェラッドが一番好きなキャラであったため、彼が演じた道化のような死にざまには思わず泣いてしまった。

 その後もトルフィンの苦難は続くのだが、夢の中でも登場するアシェラッドに「仇」だけではない「絆」が垣間見えた気がする。

 今回は肉親を殺され「仇討ち」に挑んだキャラクターを紹介したが、それぞれ立場や状況は違えど自分なりの方法で前に進もうと必死に足掻いた姿が描かれている。なかには「仇討ちの爽快感」より、相手との対話により分かり合える可能性と虚しさが生まれ考えさせる作品も存在する。

 こうした作品を読むことは、憎しみについて考え直してみる良いチャンスかもしれない。

  1. 1
  2. 2