『死化粧師』の“エンバーマー”、『ROUTE END』の“特殊清掃業”も…日常生活ではなかなか知り得ない…漫画に出てくる「特殊な職業」3選の画像
FEEL COMICS『死化粧師』(祥伝社)

 漫画には普段聞き慣れない職業が登場することがある。特殊な仕事を取り上げた作品は、読者に新しい世界を見せてくれるだろう。なかには、実在しない架空の職業を取り上げている作品もあるが、実在する職業を描いた作品からは学ぶことも多い。

 漫画で知った職業に興味を持った、なんて話もよく聞く昨今……今回はそんな漫画で知った特殊な職業を作品を挙げながら紹介していこう。

■エンバーミングのライセンスを持つ『死化粧師』

 2002年から『FEEL YOUNG』で連載された三原ミツカズ氏の『死化粧師』(祥伝社)。全7巻の単行本が発売された本作は、2007年に和田正人が主演に起用されテレビドラマ化も果たしている。

 本作で取り上げられている職業は「エンバーマー」と呼ばれるもので、日本では“遺体衛生保全”と呼ばれる「エンバーミング」のライセンスを取得した人たちのことを指している。おもに土葬が行われる地域で盛んなエンバーミングは、感染症などを防止する目的があるほか、故人を生前の姿に近づける化粧を施したり、損傷がある部分を目立たないように修復したりと、防腐処理以外にもさまざまな施術を行うことがある。

 本作に登場する主人公・間宮心十郎は、父親の死をきっかけにアメリカに留学し、エンバーミングのライセンスを取得した経歴を持つ。

 彼は依頼に真摯に向き合い、故人だけでなく残された遺族の気持ちも汲み取りながら、最期の別れが少しでも良いものになるように演出していく。たとえば、結婚を控えながらも無念の死を遂げた女性に、サムシングブルー(花嫁が聖母マリアを象徴する青色を結婚式で身につけると幸せになれるというおまじない)のガーターベルトを用意するなど、間宮は亡くなった人や遺された人に対して細かな気遣いを見せており、その姿は読者の心に深く刺さる。

 現在、日本でエンバーマーの数は約160人(2017年時点)。まだまだ馴染みのない職業ではあるものの、本作を読むことでこの職業の素晴らしさに気づかされる人も多いだろう。

■事件や事故があった場所の特殊清掃業『ROUTE END』

 孤独死や事件などで人が亡くなった現場を清掃する“特殊清掃業”を描いたのが中川海二氏による『ROUTE END』(集英社)だ。2017年から2019年まで『少年ジャンプ+』で連載された本作。本作の主軸は「END事件」という連続猟奇殺人事件を追ったものではあったが、そのなかで主人公・春野太慈が勤めていたのが特殊清掃会社の「特殊清掃アウン」だった。

 この会社の社長が事件の被害者となったことで、春野は徐々にこの連続猟奇殺人事件に巻き込まれていくことになるという、事件を主軸にした“サスペンスもの”ではあるものの、特殊清掃という聞き慣れない職業に携わる人たちの葛藤も丁寧に描かれていた。

 ときには遺体が放置されていた部屋を清掃する彼らの仕事。それは特殊な職業であるからこそ、精神的な負担も大きい過酷な世界でもあった。本作は、そんな彼らのベールに包まれた世界を、漫画を介して感じることができる作品になっていた。

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