■みさえの失敗にも怒らない「お弁当コンクールだゾ」
幼稚園児らしからぬ懐の深さを持つしんのすけの姿が描かれた「お弁当コンクールだゾ」も忘れられない。
ある日しんのすけの通う幼稚園で、自分たちで手作りしたお弁当を持ち寄る「お弁当コンクール」が開催されることになった。思い思いのお弁当を持ち寄った園児たち。自分で頑張って料理を作ったマサオくんや、素晴らしい料理の腕前を見せたボーちゃんのお弁当が次々と披露されていく。
一方で早起きができずに母親に作ってもらったネネちゃんや、過保護な母親にほとんどを手伝ってもらった風間くんは、自分で作っていないことがバレないかとヒヤヒヤ。
そんな子どもたちの様子を見かねた吉永先生が、「どれが一番なんて言えないわね! みんなに花丸の努力賞をあげます」と締め、お弁当コンクールは円満に終わった。
このエピソードの最後、しんのすけがお弁当を開けていないことに気づき「しんちゃんのも見せて」と吉永先生が声をかけるシーンがある。
実はしんのすけはお弁当コンクールのことを忘れており、「自分は審査員をする」と宣言し、自分のお弁当は開けていなかった。“自分のはみさえが作った”と言いながら、包みを開いていくしんのすけ。
すると「サバの味噌煮」と書かれた缶詰がコロコロと転がり出て、そこには「ごめん、じかんがなくて」とみさえの文字が。さらに、お茶目な似顔絵が添えられていた……。
サバの味噌煮缶とご飯だけというしんのすけのお弁当を見て言葉も出ない幼稚園の友人たちだが、当のしんのすけは「いや〜参ったよね〜」とニコニコ。
お弁当が缶詰とご飯だけだったら、この歳の子どもであれば思わず恥ずかしがったり、悲しんでしまったりするのが普通だろう。しかし、しんのすけは何事もなかったかのようにみさえの失敗を笑っているのだ。
みさえの失敗をよくあるおっちょこちょいだと容認するわずか5歳のしんのすけの“神対応”に、思わず胸が熱くなってしまった次第である。
しんのすけは少し下品でお調子者の天真爛漫な性格だ。そのため、作中でもそんな行動がメインとして描かれることが多い。しかし一方で、親世代になると実はしんのすけはかなり“よくできた子ども”だということに気づかされる。
コメディー作品としてお茶の間を和ませている『クレヨンしんちゃん』だが、たびたび描かれているしんのすけの“神行動”に注目しながら見てみると、よりほっこりと優しい気持ちになれると思う。