4月7日、『忍者ハットリくん』『魔太郎がくる!!』『怪物くん』など数々の名作を生み出した藤子不二雄Aさんが亡くなった。日本を代表する漫画家の一人で、子ども向け作品だけでなく、大人も楽しめるブラックユーモア作品を多く生み出した藤子不二雄Aさん。中でも、黒ずくめで不気味な笑顔が印象的なセールスマンが、現代人のココロのスキマを埋める一話完結型のオムニバスストーリー『笑ゥせぇるすまん』は、1990年代のバブル崩壊期の世相も相まって、大ヒットとなった。
『笑ゥせぇるすまん』は1989年から『ギミア・ぶれいく』(TBS系)内の10分枠のコーナーとしてアニメ化。現在は公式YouTubeチャンネルでいくつかのエピソードが期間限定で公開されているが、ストーリーは毎回、心のさみしい現代人の前に喪黒福造というセールスマンの男が現れるところから始まる。喪黒はボランティアで毎話の主人公が幸せになるよう願いを叶えるのだが、その際に必ず節度を守るよう約束をさせる。しかし、たいていは主人公がその約束を破ってしまい、喪黒の相手の顔面を指差す「ドーン!!」の制裁によって、悲惨な結末を迎えてしまうというのがセオリーとなっている。
主人公たちのいっときの幸福と転落を描くことで現代人の心に巣食う欲望や愚かさ、心の弱さをアイロニックに描いた同作。しかし中には、本当に稀ではあるがハッピーエンドのパターンも存在する。
そこで今回は『笑ゥせぇるすまん』の貴重なハッピーエンド回を紹介したい。
■「ココロのスキマを埋めるのにも少々疲れました」
まずは「夜行列車」。全てを捨てて旅に出たいと思っている主人公のもとに喪黒が現れる。「ドーン!!」のかけ声とともに、主人公は行くあてのない夜行列車の旅に出かけることに。主人公は旅先の居酒屋でつかの間の楽しいひとときを過ごし、おかみの誘いに乗ってそのまま居酒屋の二階に泊まり、そこで暮らし始める。
そんな主人公の前に喪黒が現れ「家に連絡をしたほうがいい」と忠告する。通常ならばここで忠告を無視するものだが、この主人公はちゃんと忠告を守り家族へ電話をかけた。すると喪黒が豪雪にも関わらず、帰りの電車を召喚。無事に現実世界へ帰ることができたというストーリーだ。
シリーズの中では珍しく、理性的でちゃんと約束を守った主人公。喪黒の「ココロのスキマを埋めるのにも少々疲れました」という最後のセリフも印象的なエピソードだ。