フジテレビの日曜夜に不動のポジションを築いている『サザエさん』は2019年10月に放送50周年を迎えた。
磯野家の変わらない日常を放送し続ける同作だが、長らくアニメを視聴しているファンにとって楽しみのひとつなのが、予告のあとのじゃんけん。そのコーナーでその週にサザエがグーチョキパーの何を出すかの研究を重ね、高い確率でじゃんけんに勝っている人物がいる。普段は某IT企業に勤務する一方、『サザエさんじゃんけん研究所』所長として同人イベントで研究報告を頒布する高木啓之氏。筋金入りのウォッチャーは、いまの『サザエさん』をどう見ているのか?
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以前は番組の最後に、「ンガググ」とクッキーを喉につまらせていたサザエが、じゃんけんをやるようになったのは91年秋。「サザエさんじゃんけん研究所」の所長・髙木さんは、以来28年間、サザエが出す手の傾向を研究し続けている。
「91年はまだパソコン通信の時代で、アニメファンが集まる掲示板で有志が始めたのが最初です」
現在は毎週放送前に“サザエに勝てると予想した手”をツイッター上に発表。今年の勝率は、なんと8割以上というから驚きだ。
「どの手を出すかは、ひとりの担当者が決めているようで偏りがあるんです。データを蓄積していき、始まって1年ぐらいで勝率が上がりました。ところが、勝率がガクンと落ちるときがある。おそらく担当者が変わったということでしょう。いまの担当者は、同じ傾向を保ち続けているので、(じゃんけんが)弱いと言えますね(笑)」
そんな髙木さんは、現在のアニメ『サザエさん』をどのように観ているのだろうか?
「作品の舞台は、一種の異世界というか、パラレルワールドなのだと捉えています。85年に広告代理店とプロデューサーが変更になった時に、サブキャラが少し入れ替わったことがありましたが、それ以降は基本的に変化がない。そのことで、いまは現代とのズレが味になっています。いわば伝統芸能のようなものなので、このまま続けていってほしいですね」
「スマホやネットがないのはおかしい」という声もあるが、それに対しては否定的だ。
「世界観が変わってしまうというか、別の作品になっちゃう気がします。それがないことで成り立つギャグがほとんどですから」
基本設定が変わらない中での、サブキャラの描き方や登場頻度の変化についてはどうだろうか?
「脚本家によって、使いやすいキャラとそうでないキャラというのがあると思います。堀川君は雪室俊一さんが担当の回にしかほとんど出てこない。脚本を作るのは放送半年前なのですが、結局、特定のキャラが出る出ないというのは、脚本家と、その時期の脚本の傾向に左右されるのでは?」
もうひとつの変化として、声優の交代がある。
「新しいマスオ役の田中秀幸さんはイケボ(イケメンボイス)ですが、これはこれでアリ。声優が変わっても、毎週観ていれば慣れる。逆にたまにしか観ないと、いつまで経っても馴染めないんでしょうが」
柔軟な考えを持つ髙木さんは、舞台化、ドラマ化についても好意的だ。
「原作から見れば、そもそもアニメも2次創作みたいなもんですから。舞台にしてもドラマにしてもバリエーションのひとつという見方ですね。それはそれで楽しめる」
一方で、髙木さんが、非IT生活とともに、守ってほしいと思っているものがある。『サザエさん』にはいまのコンプライアンス感覚ではNGな描写が見られる。最近も、電柱に登って作業をする人が家の中を覗くという描写があった。
「原作からあるネタなんです。おおらかだった時代の空気がまだ残っている。様式として確立されているものなのでそこも変えないでもらいたいところですね」
※本記事は『EX大衆』2019年11月号の企画を再構成したものです。