『SLAM DUNK』作中一番の名将は誰? 安西vs高頭vs田岡vs堂本…4人の監督たちを徹底比較してみたの画像
DVD『SLAM DUNK』第16巻(東映)©井上雄彦・アイティープランニング・東映アニメーション

 井上雄彦氏の名作バスケットボール漫画『SLAM DUNK』。本作における数々の名勝負の裏には、必ず“監督の決断”があった。

 選手の能力を最大限に引き出し、試合の流れを読み、チームをまとめあげる。湘北の安西先生、海南大附属の高頭監督、陵南の田岡監督、そして絶対王者・山王工業の堂本監督。いずれも強烈な個性でチームを導いた監督たちである。

 では、この4人のうち、もっとも“名将”と呼ぶにふさわしいのは誰なのか。

 今回は高校バスケの指導者に求められる「采配」「育成」「求心力」という3つの視点から彼らを比較し、『SLAM DUNK』が描いた究極の名将像を探っていきたい。

 

※本記事には作品の内容を含みます

 

■「采配」攻めの安西、洞察の高頭

 試合の勝敗は、コートに立つ選手の力だけでは決まらない。戦術、交代のタイミング、守備の切り替え。監督の采配が勝敗を左右するのが、バスケットボールという競技の奥深さであり、怖さでもある。

 この観点で最も光ったのは、湘北の安西先生だ。大学時代は「ホワイトヘアードデビル(白髪鬼)」と恐れられたシステマチックな理論派であったが、その経験をベースに高校バスケでも勝負勘を発揮した。

 海南戦では神宗一郎の3Pを封じるため、素人同然の桜木花道をフェイスガードに起用。惜しくも敗れはしたが、徹底した分析と柔軟な戦略で強豪・海南を追い詰めた。

 そして山王戦では、宮城リョータ1人にゾーンプレス突破を託すという大胆な采配で、湘北を奇跡の勝利へ導いている。“大胆な賭け”と、その根底にある“選手を信じて任せる采配”が安西バスケの真骨頂だと言えるだろう。

 一方、海南の高頭監督は分析と戦略の名手である。湘北戦では開始間もなく桜木の未熟さを見抜き、体格差のミスマッチを逆手に取って宮益義範を投入。試合の流れを掌握し、冷静な采配で主導権を握った。

 対照的に、陵南の田岡監督と山王の堂本監督は、采配の読み違いが命取りとなった。田岡監督は湘北戦の終盤、桜木や木暮公延の底力を見誤る。一方、堂本監督は絶対王者としての必勝パターンがあっただけに劇的な采配を取れず、どちらも湘北に敗れることになった。

 最終的に勝敗を分けたのは、知識と経験に裏付けされた戦略と選手を信じ抜く力。そうした意味では、安西先生こそ最も冴えた采配を見せた名将といえるだろう。

■「育成」循環の高頭、完成の堂本

 高校スポーツでは、選手の成長が著しい一方で、わずか3年間で主力が総入れ替えとなる。ゆえに監督には、プロ以上に“育成力”が求められるだろう。この分野で際立つのが、海南の高頭監督と山王の堂本監督だ。

 高頭監督率いる海南は「海南に天才はいない だが海南が最強だ!!」という彼の言葉に象徴されるように、努力を積み重ねる育成型チームである。

 3年の牧紳一を軸に、2年の神、1年の清田信長といった世代ごとの主力候補を計画的に育成。経験と意志を次世代へとつなぐ“循環型チーム”を築き上げている。個々の才能に頼らず、地道な鍛錬で凡人を勝者へと変える。高頭監督の哲学は、まさに高校スポーツの理想形と言えるだろう。

 一方の堂本監督は、それを全国区で体現している。山王は、海南以上に選抜された精鋭をさらに磨き上げる「完成度重視型」の育成システムを構築し、全国制覇を重ねてきた。沢北栄治という天才ですら、河田雅史や深津一成といった強者たちとの切磋琢磨を通じて伸びていった。

 対照的に湘北の安西先生は、かつてのスパルタ指導から、選手の自主性と気づきを尊重する“自ら考えさせる”スタイルへと転換した。桜木の急成長はまさにその象徴といえるだろう。

 陵南の田岡監督もまた、魚住純を軸に3年計画でチームを構築し、仙道彰という次代のエースへと世代交代を進めていた。しかし魚住が3年となる勝負の年、全国の舞台には届かなかった。

 プロとは異なり、高校スポーツの“育成”とは、個々の才能を伸ばすことはもちろん、チームの精神を次の世代へ受け継ぐこと。その意味で、高頭監督と堂本監督は、“常勝の仕組み”を最も完成された形で示した名将といえるだろう。

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