■ラスボスと深く結びつくキーアイテム

 前述の2つのアイテムが“人間を超える”ための象徴だったのに対し、第3部以降、そのテーマをさらに拡張し、能力と運命を結びつける役割を担ったのが「スタンドの矢」である。

 その起源は数万年前、グリーンランドに落下した謎の隕石にさかのぼる。この隕石には未知のウイルスが付着しており、宿主を選別するかのように、スタンドの素質を持たない者を死に至らしめ、素質を持つ者だけに新たな能力を授けた。隕石から作られたと思われる矢は少なくとも6本存在し、それぞれが数世代にわたる人間関係と事件を動かしていく。

 そして、この矢を物語の中で実際に動かし、歴史を変えた張本人がエンヤ婆である。彼女は第3部でDIOの側近として暗躍しながら、第4部、5部、6部の運命にまで影響を及ぼした真の“黒幕”だった。

 1986年、若きディアボロがエジプトで6本の矢を発掘し、そのうち5本をエンヤ婆に売却。エンヤ婆はその矢を用いてDIOに「ザ・ワールド」を発現させ、さらに彼の配下となる数多のスタンド使いを人工的に生み出した。DIOの肉体はジョナサンのものであったため、その能力はジョースター家にも受け継がれ、空条承太郎や東方仗助、さらには空条徐倫の物語にまで連なっていく。

 第4部では、エンヤ婆が保有していた矢の1本が杜王町の虹村形兆の手に渡り、彼は怪物化した父を救う手段を探すため町中にスタンド能力をばらまいた。その結果、広瀬康一をはじめ、大量のスタンド使いが生み出される。この矢はスピードワゴン財団に回収されるが、その断片が第6部で再び物語に干渉した可能性が示唆されている。また、第4部のラスボス・吉良吉影の父である吉廣も矢を使い、息子を守るため新たなスタンド使いを次々と作り出した。

 第5部では、ジャン・ピエール・ポルナレフが所持していた虫型の矢尻が、スタンドを「レクイエム」へ進化させる力を秘めていた。ポルナレフはその力を知って矢を託すべき相手を探すが、最終的にジョルノ・ジョバァーナが手に入れ、「ゴールド・エクスペリエンス・レクイエム」を発現させて勝利を掴む。この矢もまた、エンヤ婆が関与した系列のものである可能性がある。

 そして第6部。DIOは生前、友であり同志であるエンリコ・プッチに矢を託していた。プッチはその矢で自身のスタンド「ホワイトスネイク」を発現させ、やがて「C-MOON」を経て「メイド・イン・ヘブン」へと進化させる。つまり、第6部のラスボスもまた、エンヤ婆がDIOに与えた矢から生まれた存在だったのである。エンヤ婆の一手が、時代をまたいで“世界の一巡”という未曾有の結末を呼び込んだのだ。

 

 こうして見ていくと、石仮面は“人間を超えた存在への変貌”、スーパー・エイジャは“究極進化”、そして矢は“運命の選別と能力の覚醒”という役割を担っていたことがわかる。そしてその矢を介して、第3部から第6部までのラスボス誕生に深く関わったエンヤ婆こそ、『ジョジョ』の歴史を陰から操った最大のキーパーソンと言えるだろう。

 さらに物語は、第7部「スティール・ボール・ラン」で「聖人の遺体」という新たなキーアイテムを中心に展開し、第8部「ジョジョリオン」では人体と運命を変える植物「ロカカカ」が物語の核となった。『ジョジョ』の世界では、時代や舞台が変わっても、“人を進化させ、運命を揺るがす”アイテムが常に物語を動かし続けてきたのである。

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