■絶望しか感じない『ベルセルク』フェムト
“大人ですら深いトラウマを負った”ラスボスの代表格として、『ベルセルク』に登場するゴッド・ハンドの一員「フェムト」も外せない。主人公ガッツのかつての仲間であり、仲間の多くを裏切ってゴッドハンドへと転生したグリフィスの成れの果てである。
とりわけアニメで描かれたおぞましい宴「蝕」の場面――ガッツの目の前で恋人キャスカがフェムトに凌辱されるシーンは、視聴者の心に深い傷を残した。テレビアニメ『剣風伝奇ベルセルク』や、映画『ベルセルク黄金時代篇III 降臨』、テレビ版の『ベルセルク 黄金時代篇 MEMORIAL EDITION』でも、その凄惨さと絶望感は一切の妥協なく再現されており、「なぜここまで描くのか」と震えた視聴者も少なくなかったはずだ。
「蝕のシーンはトラウマすぎる」「グリフィスがああなった瞬間、世界が終わった感じがした」といった声がネットに溢れるように、フェムトは“人の形をした絶望”そのものであり、善悪や道理を完全に超越した存在だ。そしてなにより恐ろしいのは、30年以上原作の連載が続いているなか、今なお、5人のゴッド・ハンドの誰一人として倒せていないという事実だろう。
この「倒せない悪」は、視聴者や読者にとって圧倒的な無力感を植え付ける。そして、その象徴たるフェムトは、もはやアニメという媒体においてさえ、人の心を切り裂く凶器として機能する。
■ゲーム感覚で人の命を奪う『亜人』佐藤
最後に紹介するのは『亜人』のラスボス・佐藤である。彼は不死身の存在「亜人」として、殺されても何度でも復活する「無限残機」を武器に、国家すらも翻弄する。通常、こうしたキャラクターは若者であることが多い気がするが、佐藤の見た目はごく普通の初老の男。それが“ヤバさ”を増幅させている。
佐藤は戦略家でありながら、完全にゲーム感覚で人を殺す。作中では飛行機を墜落させ、病院を爆破し、自衛隊を一掃するなど、ありとあらゆる手段を使って“スコアアタック”のように人間を殺していく。その全てが緻密に計算された“遊び”であり、飽きたら殺す、飽きたら帰る、飽きたらまた戻ってくるという無慈悲なサイクルに、視聴者は恐怖することになる。
しかも、その「ゲーム」は一切手を抜かず、ほぼ全戦全勝を誇る。主人公の永井が命懸けで立ち向かっても何度も再生し、常に“予想を超える最悪”で返してくるのだ。
今回紹介してきたラスボスは、それぞれが持つ怖さのベクトルは違えど、共通しているのは「常識が通じない」という点だ。彼らは単なる敵役やボスキャラではなく、“視聴者の心に永遠に残るトラウマ”として存在し続けている。
あなたの心に今も残るラスボスは、誰だろうか?