『ベルサイユのばら』や『ガラスの仮面』にも…片思い男子の奇行!? 思わずツッコミたくなる70年代少女漫画で描かれた“恋する男”たちの画像
フェアベルコミックス『ベルサイユのばら』第8巻(フェアベル)

 いつの時代も恋愛漫画は人気だ。とくにイケメン男性が片思いの相手に対してとる切ない行動には、読んでいるこちらも胸がキュンキュンしてしまう。しかし70年代のキラキラ少女漫画全盛期においては「普通そんなことする!?」と思ってしまうような男性の奇行も多い。当時は真面目に読んでいたが、今読み返すとついツッコミたくなってしまうような70年代の男前キャラの“恋するエピソード”を3選紹介しよう。

■叶わぬ恋に苛立ち草むしり…!? 『ベルサイユのばら』オスカルを想うアンドレ

 池田理代子氏が手がけた『ベルサイユのばら』といえば、主人公のオスカルと幼馴染のアンドレとの恋愛が見ものだ。アンドレは昔からオスカルのことが好きだったのだが、当初、オスカルは美男子貴族のフェルゼンに惹かれていたし、なによりアンドレとは身分の差があった。

 作中、自分の想いが通じないアンドレが苦しむ印象的なシーンがある。フェルゼンを想い涙ぐむオスカルに対し、アンドレは力づくで抱きしめキスをする。オスカルは抵抗するも、アンドレは「愛している愛している!」と無理に押し倒し、しまいには洋服を引き裂いてしまうのだ。感情の赴くまま行動してしまったアンドレ……現代なら大問題である。

 そしてオスカルに見合い話が出たとき、貴族の身分がないアンドレは花婿候補になれず、苛立って兵営内で発砲騒ぎを起こした挙句、逃走する。その後、草原に倒れこみ「……だめなのか……!? どんなに愛しても……」とオスカルを想いながら、草をぎゅっとむしって泣き叫ぶのであった。

 やりきれない想いを“草むしり”にぶつけているようなこちらのシーン。思えば70年代の漫画では、男性が絶望や悔しさを感じると地面を叩いたり、石を思いきり投げつけたりと、地面に八つ当たりをしている場面が多かったような……。一途にオスカルを想い続けたアンドレ、最終的にその気持ちが報われたストーリーにホッとした読者も多いだろう。

■素直に伝えられずマヤをイラつかせてばかり『ガラスの仮面』速水真澄

 美内すずえ氏による演劇を舞台にした名作『ガラスの仮面』では、主人公マヤと11歳年上の速水真澄との恋愛関係が気になるが、真澄の行動も実はツッコみどころ満載だ。

 大都芸能の社長である真澄は、その立場やプライドから、あえてマヤに嫌われるようなことを言ってばかり。

 たとえば、貧しい劇団のつきかげで頑張るマヤに対し「1人食いぶちがへるだけでも 月影先生は助かるぞ」と言ってマヤを傷つけたり、紅天女役候補に選ばれた際には「大勢の人々がきみと亜弓さんを較べるわけだからな」と、皮肉を言いプレッシャーを与えている。しかし、そうかと思えばすぐさま紫のバラを送って「いつもあなたを見守っています」と本心を伝える。ああもう面倒くさい……直接本人に言ってやれと思った読者もいただろう。

 また「忘れられた荒野」編では、マスコミの注目を集めるため、真澄はパーティーでマヤに狼少女・ジェーンを実演するよう仕向ける。肉を床に投げつけくわえさせたり、手に噛みつかせたり。舞台の宣伝としては成功したものの、マヤからは「大っきらい!あなたなんて死んじゃえ!」と言われ、その言葉を聞いた真澄は“白目蒼白”になりつつも、平静を装うのだ。

 生い立ちが複雑なうえ、父親への復讐心などもあることから素直に感情を出せないのかもしれないが、しかしマヤに噛まれた傷口をそっと舐めたり、マヤの肩を抱く桜小路優に燃えるような嫉妬を見せたりと、自分の気持ちを抑えられない一面がある真澄。今となっては、可愛らしくも思えるものだ。

■好きな人にそこまで尽くす? 『はいからさんが通る』青江冬星

 最後に大和和紀氏の代表作品である『はいからさんが通る』から、主人公・花村紅緒の上司である青江冬星の奇行とも言える紅緒への献身ぶりを紹介したい。

 冬星は女性アレルギーであったが、自分の出版社で働くことになった紅緒に惹かれ、影ながら彼女をサポートしていくこととなる。

 紅緒の婚約者でシベリアで消息不明となった伊集院忍が生きている可能性を掴んだときは、紅緒と忍が再びくっつくかも分からないのに密着取材を許可したりもする。

 また冬星の実家は銀行であり、忍の実家の債権者だったのだが、婚約者の屋敷を担保にしたら紅緒が悲しむと思った冬星は、好きな編集長をやめて銀行を継ぐ条件で屋敷を取り返そうとする。それを知った紅緒は、自分のために尽くしてくれる冬星と結婚を決意するのだが、挙式当日に関東大震災が起こり、がれきのなか、紅緒を助けたのはなんと皮肉にも忍であった。

 2人が愛し合っていることが分かった冬星は「もう 二度と伊集院を離すんじゃないぞ」というセリフを残し立ち去る。しかも、後日開かれた紅緒と忍の披露宴では、お祝いとして忍の家の登記書を返していた。結婚式当日に婚約破棄されているのだから、慰謝料としてお屋敷くらいもらってもいいのに……と思ってしまうのは筆者だけだろうか。

 好きな女性に献身する男性キャラは多いが、冬星の場合はどう考えても優しすぎる。大好きな仕事を彼女の婚約者のために捨てようとし、震災時に紅緒と離れたのもケガをした蘭丸を背負い、母親に止められたのが原因だった。最終的に、サラリと忍に紅緒を奪われてしまうのは、なんとも切ない。

 ちなみに、番外編「霧の朝 パリで」では、冬星が紅緒に似た少年と運命の出会いをし、その後どのような生涯を送ったのかが描かれている。少しボーイズラブ的な雰囲気を持つ冬星の番外編ストーリーも要チェックだ。

 

 70年代の少女漫画では、恋する男性のちょっと行き過ぎたシーンも多い。悔しさから地面に八つ当たりをしたり、草をくわえてキザなセリフを言ったり……。しかし、そんな大げさな奇行ほど、印象的なシーンとして記憶に残るものである。そしてなにより、このようなツッコミどころの多いシーンも純粋に楽しめるのが、昔の少女漫画の良さであるとも思う。