仮面ライバルキャラの登場、巨大モビルアーマーとの戦闘、後継機への乗り換えなどなど、『ガンダム』シリーズの定番エピソードはいろいろあるが、主人公が母親と別離するというシチュエーションも、実はかなり多い。その中でも壮絶な別れのエピソードを3つピックアップしてみよう。
■ヘルメットの重さが伝える悲しい別れ
母親との別れが描かれたエピソードで、映像的に一番壮絶なのは『機動戦士Vガンダム』だろうか。ミューラ・ミゲルは主人公ウッソ・エヴィンの母であり、レジスタンス組織「リガ・ミリティア」の主要人物の1人。優秀な技術者としてV2ガンダムの開発に携わった人物で、ある事件がきっかけでザンスカール帝国に囚われ人質となってしまう。
ウッソは母親を救出しようとするが、その寸前、ちょっとしたきっかけで近くのバイク戦艦が弾かれてしまう。そしてバイク戦艦のタイヤが、ウッソの母を押しつぶしてしまうのだ。
これが普通のアニメの展開であれば、寸前で救出できる展開になりそうだが、『機動戦士Vガンダム』は、シリーズの中でも特に残酷な描写が多い作品。ここでもちょっとした偶然によって彼女が救出されるということはなく、母は巨大なタイヤに潰されてしまう。
その後、ウッソが「母さんです」とヘルメットを渡し、その重さに渡されたマーベットがギョッとした表情を浮かべる。その様子から“何か”中身が入っているんだと視聴者にも伝える演出は、あまりに有名である。視聴者視点でも作中の登場人物視点でも、『ガンダム』シリーズ史上、最高峰にショッキングかつグロテスクな別れのシーンだった。
■地上に残った母との水入らずの時間も束の間
続いては第1作『機動戦士ガンダム』より。主人公アムロ・レイは、父テム・レイとともにスペースコロニーでの生活を選び、地上に残る母カマリア・レイとは離れて暮らしていた。
そんな中、ガンダムで地球に降り立ったアムロは難民キャンプを訪れた際に母と感動の再会を果たすことになる。だが親子水入らずの時間も束の間、敵組織であるジオン兵が見回りにやってきて、見つかりそうになったアムロはその一人を銃撃。ジオン兵に重傷を負わせて難を逃れる。
二人の別離はこの後のことである。アムロのとった行動に母親は「人様に鉄砲を向けるなんて、あんたをこんな風に育てた覚えはない!」と激昂。以後、母親は作品に登場することはなかった。
死の別れでないのが救いではあるが、戦争に巻き込まれた15歳のアムロにとって、あまりに悲しい母との別れ。住む世界がすっかり違ってしまった親子の構図を伝えるエピソードで、ガンダムファンの間では母親の評価は低く語られがちでもある。
それだけ感情に訴えるものがあるということだろう。ただ成長を描く、ただ敵を倒す、ただ悲劇が起きるといった描写に収まらない、ドラマ性の非常に高い、ファースト『ガンダム』を象徴するような出来事だ。
■宇宙空間に放り出されたスレッタ・マーキュリー
『ガンダム』シリーズ最新作である『機動戦士ガンダム 水星の魔女』にも母親との別離のエピソードがある。
主人公スレッタ・マーキュリーの母親であるプロスぺラ・マーキュリーは、第18話「空っぽな私たち」で自分の目的にとって不要となったスレッタを宇宙空間に放り出すのである。スレッタは、それをきっかけの一つとして自分の意志で行動するようになり、成長していくことになる。
プロスぺラとしては、スレッタを危険な目に合わせたくないという思いもあった。また学校で出会ったたくさんの友だちがスレッタを囲んでおり、母としては穏やかな生き方ができるように道を示したのだろうが、それにしても荒っぽい突き放し方ではあった。
大粒の涙を流していた主人公であるスレッタ視点で考えると、今まで100パーセントの信頼をしていた母親の突然の行動である。また直前には、婚約予定者のミオリネや、自分に告白したグエルにも突き放されている。それを踏まえると、主人公の精神的なダメージとしては『ガンダム』シリーズでも上位の別れだったかもしれない。
母親に限らず、主人公の家族が登場すると悲劇に見舞われがちな『ガンダム』シリーズ。他にも「ヒルダ・ビダン」「エミリー・アスノ」「ミライ・ノア」など様々な母親キャラが居る。