人気を博した漫画やアニメがどのような結末を迎えるかというのは、それを楽しんでいた読者や視聴者であれば誰もが気になることだ。王道と呼べるハッピーエンドや解釈の分かれるひねりの利いたラストなど、様々なパターンがある。その中には、主人公が死ぬという予想外の結末を迎える作品もある。
その場合、「どうして主人公が死ななくてはならなかったのか?」ということが納得できるかどうかというのが重要なポイントだ。場合によっては最初から振り返ってみることで、作中に散りばめられた伏線に気が付くこともあるだろう。
しかし、たとえ物語としては主人公の死に納得できたとしても、「できれば死んでほしくなかった」「二度と活躍が見られないのか…」という一抹の寂しさを覚えてしまうのもまた人情である。そこで今回は、そんな「主人公が最後に死んでしまう」作品を紹介していきたい。
■主人公とは思えない小者ムーブ『DEATH NOTE』夜神月
原作:大場つぐみ氏、作画:小畑健氏による『DEATH NOTE』(集英社)は、ファンタジーと推理が融合した珍しい形のサスペンス漫画だ。主人公の夜神月は、デスノートを手に入れたことによって、自らの歪んだ正義感に突き動かされ、それをどんどんエスカレートさせていく。少年漫画の王道であるはずのジャンプ作品で、主人公が大量殺人を平然と行うのはかなり斬新だった。
そんな月の豹変ぶりは見ていてもかなり痛々しいものがあり、最大のライバルと呼べるL(エル)に追い詰められると、周囲にいる人間をあっさりと駒のように扱い捜査を妨害。その主人公とは思えないような非道ぶりには「こんなのアリなの?」と驚いてしまったものだ。月は、デスノートによって自分が「新世界の神」となって理想を成し遂げて君臨することを信じて疑わず、そのためには多少の犠牲は仕方がないという考えを持っているのだ。
次第にエスカレートしていく月の自己中心的な振る舞いに、読者の大半は「このまま逃げ切れはしないだろう」「絶対に報いを受ける」と予想していたかもしれないが、そんな予想通りに死んでしまうばかりか、「うわーーっ死にたくない!! 逝きたくないーー」と喚き散らす、その小物ぶりには唖然としたものだ。
巨悪の必然として死を迎えた月だが、もし生き延びていたとしても、最後は何も変わらない世界に絶望していたかもしれないと考えると、これでよかったのかもしれない。
■宿敵を道連れに愛に殉じた『ジョジョの奇妙な冒険』ジョナサン・ジョースター
荒木飛呂彦氏による『ジョジョの奇妙な冒険』(集英社)も、第1部では主人公ジョナサン・ジョースターが死んで終わっている。
ジョナサンは、石仮面によって吸血鬼化した宿敵ディオとの戦いのために波紋を習得し、一騎打ちを挑む。人間を超越する力を持つ吸血鬼は、多少の傷もすぐに修復してしまうが、そんな化け物を相手にジョナサンは、負傷しながら何度も立ち向かっていった。
そして、激闘の末にディオに波紋を叩き込みついにジョナサンが勝利したかのように思えたが、悪のカリスマであるディオはしぶとい。何と首だけになっても生き延びていたのだ。ディオがジョナサンの肉体を奪おうと襲いかかってきたのは、エリナと結婚したジョナサンが新婚旅行の航海に出た船上でのことだったから、仲間の助けもない状況だ。
絶体絶命のピンチとなったジョナサンは、せめてエリナだけでも助けたいという一心でディオの首を抱きかかえたまま、爆発する船とともに海に沈むことを決意した。まさに絵に描いたようなハッピーエンドが目の前にあったはずなのに、そんな究極の選択を迫られてしまったジョナサンの姿には、読者としてもまるで天国から地獄へと突き落とされた感じだった。
しかし、ジョナサンが死に、ディオが生き残ったことで第2部以降の物語のテーマが確固たるものになっていったと考えると複雑な気分でもある。作品にとって必要不可欠な死だったと言えるだろう。
■“悪”として自ら討たれた『コードギアス』ルルーシュ・ランペルージ
2006~08年に2期にわたって放送され、爆発的な人気を獲得したアニメ作品『コードギアス 反逆のルルーシュ』。ギアスと呼ばれる特殊な能力を活かした戦略や能力の解明など、ロボットアニメには珍しい要素が詰まっていることもその魅力の一端だ。そんな『コードギアス』の主人公ルルーシュは、神聖ブリタニア帝国の皇子だ。
ルルーシュは身分や人種によって差別される世界を変えるために、ギアスを使って自らの親族を敵に回す。国を変えるということは、綺麗事だけでは済まされない。戦いによって多くの命が失われていくのだ。そして、ルルーシュはギアスの能力によって周囲の人間を不幸にすることで、何度も潰れそうになる。
第2期『コードギアス 反逆のルルーシュ R2』ではついに皇位に就き世界を支配する独裁者となるルルーシュだったが、ラストでは全ての罪を背負い、自ら悪の象徴として犠牲になる。多くの人間の命を奪ったことは事実だが、一概にルルーシュだけが悪いとは言えず、あまりにも悲しすぎる最期だった。一般的には悪役とされるような人物の視点から物語を描くことで、誰が正しいと簡単には判断することができない世界の構造がよりはっきりと浮かび上がっている。
漫画やアニメのラストシーンで主人公が死んでしまうことはさほど多くないが、それゆえに何年経っても印象に残る作品になっているということは間違いない。主人公が死ぬ理由は作品によっても様々だが、いずれにしても作中での主人公の性格や行い、あるいは置かれた状況などによって、避けることができないものとして描写されることがほとんどだ。それは、わかりやすいハッピーエンドとは違う形かもしれないが、作品にとって最良の終わり方を模索した結果として現れたものだと言えるだろう。