『エヴァンゲリオン』は『セーラームーン』なくしては誕生しなかった?90年代に社会現象を起こした大ヒット作の深~い関係の画像
(C)武内直子・PNP/劇場版「美少女戦士セーラームーンCosmos」製作委員会

 1992年から1997年までアニメが放送されていた『美少女戦士セーラームーン』と、1995年から放送された『新世紀エヴァンゲリオン』。

 放送終了から30年近く経っているが、2023年初夏には劇場版『美少女戦士セーラームーンCosmos』の公開が控えており、また3月には『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の豪華特典付きBlu-rayが発売。世界中の人に愛され続ける人気作品だ。

 両者とも90年代に社会現象を巻き起こした大ヒットアニメだが、意外なほどに深い関係があるのはご存じだろうか。それというのも、遅れて放送された『エヴァ』が『セーラームーン』に多大な影響を受けているのだ。

 一見すると全くジャンルが違うように見える両作品。今回は、その関係を掘り下げてみたい。

 まず、『エヴァ』の庵野秀明監督は『セーラームーン』のテレビアニメ制作に参加しており、『美少女戦士セーラームーンS』のセーラーウラヌスとセーラーネプチューン変身バンクの演出を担当していた。

 また庵野監督は1993年に発売されたアニメ雑誌『アニメージュ』にて、『セーラームーン』の第34話で感動して泣いたと語っている。そのシーンは、主人公の月野うさぎが地場衛の前で初めて変身するというもので、正体を知られて裸を見られてでも変身をするといううさぎの決意に心が動かされたのだという。

 これらのことから庵野監督が『セーラームーン』に並々ならぬ思い入れがあることがわかるが、それが『エヴァ』のさまざまな設定や内容に反映されているのだろう。

 まず『セーラームーン』のうさぎ役の声優・三石琴乃は『エヴァ』では葛城ミサトを演じている。両者を改めて見比べてみると、ハート型になった前髪の形がそっくりだ。

 声優といえば、碇シンジ役の声優・緒方恵美は、1993年の劇場版『美少女戦士セーラームーンR』で地場衛の少年時代の役で出演しており、庵野監督はその演技を見て、『エヴァ』で主役のオーディションを受けてほしいとオファーしたのだという。この経緯は緒方の自伝エッセイ『再生(仮)』にて詳しく語られている。

 また、『エヴァ』の象徴的なキャラクター・綾波レイも『セーラームーン』との関わりが深い。苗字である「綾波」は旧日本軍の戦艦名からとられており、「レイ」は『セーラームーン』の火野レイから名づけたという。これについては庵野監督が自身のWeb日記で経緯をつづっており、『セーラームーン』の現場で親交があったアニメ監督の幾原邦彦氏を『エヴァ』のスタッフとして引き込む狙いがあったのだとか。

 庵野監督自身は明言こそしていないが、『エヴァ』終盤に登場する渚カヲルは幾原氏がモデルだと言われている。これについて、幾原監督はインタビューで「本人としてまったく関知していないんだよね(中略)でもね、まったく思い当たる節がないというわけでもない」と答え、具体的なエピソードや彼への思いを語っていた。その様子はまるで、カヲルとシンジがやりとりをしているようだった。

『セーラームーン』以外にも、『エヴァンゲリオン』は他の作品からも多くの影響を受けて完成された作品だ。

 綾波レイのビジュアルのイメージは筋肉少女帯の楽曲「何処へでも行ける切手」の歌詞中に出てくる少女をイメージして作られたものだという。コミックス2巻では『エヴァ』のキャラクターデザインの貞本義行氏が「その曲を聴いた時のいたいけなイメージ」が綾波レイのもとになったと語っている。

 今では『エヴァ』独自のものだと思われるオリジナリティにも、さまざまな背景があるようだ。作品を見るだけでは気づかない関係性を注視すれば、さらに深みを増す『エヴァ』の世界。元ネタを眺めてみるだけでも庵野監督の趣味趣向や思いが伝わってくる。