バトル漫画において欠かせない要素のひとつが「武器」だ。多くの読者がその魅力に心を奪われ、丸めた新聞紙でチャンバラごっこをしたことだろう。剣、槍、斧……様々な武器がある中で、日本古来の武器であり、数々の少年漫画に登場しているのが日本刀だ。特に、時代ものである漫画においては日本刀が登場する頻度は高く、その中には実在している日本刀がモデルになったものもある。
そこで、今回は、少年漫画に登場する武器の中から、実在の日本刀がモデルになっていると思われるものを紹介する。
■妖刀村正
少年漫画における知名度は非常に高く、「妖刀」という危険な響きに魅せられた読者も多いのではないだろうか。
そもそも「妖刀村正伝説」とは、江戸時代に広まった噂だ。徳川家康の祖父である松平清康が家臣によって殺害された際に使用された刀が村正だったのに端を発し、その後も次々に徳川家に災いをもたらしたとされた。こうした背景から、村正は徳川家にとって不吉の象徴のように扱われ、いつしか村正は不吉な「妖刀」として恐れられるようになったのだという。
そんな妖刀村正が登場した漫画のひとつが『銀魂』(空知英秋氏/集英社)だ。『銀魂』では、その名をもじった「妖刀村麻紗」として登場する。
「妖刀村麻紗」は、土方十四郎が一時的に鍛冶屋から借りた刀だったのだが、抜群の切れ味を誇る一方で、斬ったものの魂を吸い取る呪いがあるという設定で登場。そして、土方十四郎もその呪いにかかり、引きこもりの息子の怨念によって魂を食べられた結果、トッシーというヘタレなオタクに成り果てる……というもの。
本家の妖刀村正とは異なり、『銀魂』らしいギャグテイストな呪いにアレンジされたことで、屈指の名物キャラとなったトッシーが生まれたのだ。
ちなみに、『銀魂』では、紅桜編で「紅桜」という妖刀も登場している。2005年に放送されたTVスペシャルアニメ『ルパン三世 天使の策略 ~夢のカケラは殺しの香り~』や、漫画『FAIRY TAIL』(真島ヒロ氏/講談社)にも同名の妖刀が登場しているが、こちらには特に実在するモデルとなった日本刀はない。
■長曽祢虎徹
数々の作品に登場していることから、名前だけは知っているという読者も多いであろう。「最上大業物」という最上級の切れ味を誇った刀剣として認められている長曽祢虎徹は、新撰組局長・近藤勇の佩刀であり、創作作品などでは「今宵の虎徹は血に飢えている」という台詞でも有名だ。
そんな長曽祢虎徹が登場した代表的な漫画には、『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-』(和月伸宏氏/集英社)や『ONE PIECE』(尾田栄一郎氏/集英社)、先ほども紹介した『銀魂』などがある。
『るろうに剣心』では、瀬田宗次郎が、新月村で剣心と初めて対決する際に使用した。菊一文字則宗を愛用していた瀬田が、当時、丸腰だったために志々雄真実が渡したものだった。『るろうに剣心』の設定では、名刀として知られる大業物三十一工のひとつであり、名のある剣客なら喉から手が出るほど欲しがる逸品とされている。しかし、剣心との戦いで逆刃刀を叩き切ったが、ボロボロに破損してしまった。
『ONE PIECE』では、三刀流のロロノア・ゾロが保持するうちの1本として、業物「三代鬼徹」が描かれている。「二代鬼徹」は大業物、「初代鬼徹」は最上大業物で、鬼徹一派の刀剣は妖刀である、という設定だ。ゾロは「三代鬼徹」を入手する際に、その呪いに対してためらうことなく自身の腕を賭けて、結局その賭けに勝利して呪いを屈服させ自分の刀とする。
『銀魂』では、モデル通りに近藤勲が使用していたのだが、「虎鉄ちゃん」というキュートな名前になっている。しかも、近藤はローンで購入していたのだが、払い終える前に戦闘で折れてしまった。その後、「虎鉄Z-II(ゼットセカンド)」が登場するも、音楽再生機能やお部屋掃除ができるコロコロにもなるという高性能な刀(?)に。
そんな長曽根虎徹だが、寛文12~13(1672~73)年の作とされている実物が、山口県岩国市にある柏原美術館に展示されている。機会があればぜひ一度、その美しさと強さを兼ね備えると名高い刀身を実際に見てみたいものだ。
今回は、少年漫画に登場する武器の中から、そのモデルになっていると思われる実在の日本刀を紹介した。もちろん、こうした実在の日本刀をモチーフにした武器は漫画だけでなく、様々なアニメやゲームなどの創作作品において、和風のテイストを盛り込むものとしてしばしば登場している。モデルとなった実在の刀剣について、その背景を知り、作品との共通点や違いについて照らし合わせてみることで、新たな面白さに気づくことができるかもしれない。