アニメの中には、いつもはゆるいギャグ&コメディ作品なのに、まれになんの前触れもなくホラーな回が放送されることがある。有名なのが『クレヨンしんちゃん』だ。
風間くんが幼稚園で起こる数々の怪奇現象に見舞われる「恐怖の幼稚園だゾ」、ネネちゃんのうさぎのぬいぐるみが意思を持って復讐してくる「なぐられウサギの逆襲だゾ」、怪しいDVDで地球征服を目論む宇宙人が登場する「こわ~いDVDだゾ」などでは、普段の『クレしん』からは想像もできないような、子どもだったら泣いてしまうような話が放送されている。
いずれも普段の作風からは考えられない恐怖展開だが、通常のギャグ回とは異なった作風で視聴者に衝撃を与えた作品は、過去にもいくつかあった。
『うる星やつら』の「そして誰もいなくなったっちゃ!?」もそのひとつだろう。これは押井守氏が監督を務めたアニメオリジナルのストーリーで、いつもはラムやあたると友引町の面々によるドタバタラブコメが展開されるが、この回は様子が違ったようだ。
タイトルからもわかる通り、この回はアガサ・クリスティ氏による長編推理小説「そして誰もいなくなった」のパロディ。あたるたち10人は誰もいないはずの離れ小島に遊びにやってくるが、そこで次々とマザーグースになぞらえた殺人事件が起こる。
しのぶや面堂、ラムなどおなじみのメンバーが次々と息絶え、しかも、最後に1人残ったあたるが塔の最上階で対峙した犯人と思われた人物はなんと自分自身。そしてあたるは、廃人になった姿で救助隊に発見される。
この回はギャグ要素が全くなく、作品に流れる雰囲気も静かでハラハラするミステリーそのものだった。声優たちの迫真の演技も相まって、別の作品を見ているような気さえする。
ちなみにこの話のオチとしては、実は一連の騒動はあたる以外の全員による、浮気癖が治らないあたるへのドッキリだった。しかしこのストーリー展開には、誰よりも視聴者がドッキリしたに違いない。
異質だが巧妙なこのストーリーは今でもファンの間で人気のエピソードであり、2019年にNHKBSプレミアムで放送されたファン投票番組「全るーみっくアニメ大投票」の『うる星やつら』の好きなエピソードで第2位に輝いている。
■ブラックなオチまで怖かった『バカボン』
続いては『元祖天才バカボン』の「かわった友だち」。
バカボンのパパには30年来の友だちがいるのだが、いつも手しか見せてくれず、まだ一度も彼の顔を見たことがないという。パパはなんとかして顔を見るために友だちの家を訪問しあの手この手を尽くすのだが、どうやっても一向に顔を見ることができない。
友だちは襖から手だけ出して座布団を出してくれ、その奥さんは手だけ出してお茶を出してくれる。小さな息子もパパの訪問を喜んでいるようだが、彼もまた右手だけしか姿を見せない。
そんな中、夕食のタイミングでカセットコンロが転倒したことで、客間は炎上してしまう。窓から手を出し助けを求める友人一家にパパは「窓から出てくれば助かる」と説得するが、そのまま一家は全焼。友だち家族は全員焼け死んでしまうのだが、なぜか焼け跡からは家族3人分の手の骨だけが発見されるというホラーなオチだった。
もしかして初めからこの一家には手しか存在していなかったのではないか。そんな言い知れぬシュールな怖さが漂ってくる。
しかしこの話の中で一番怖いのはバカボンのパパかもしれない。アニメではこの火災はほとんど事故として描かれているが、赤塚不二夫氏による原作漫画では友だちの顔を見るために故意に放火を行っている。
このほかにも『元祖天才バカボン』にはまれに恐ろしい話が紛れ込んでいるので油断はできない。