今も子どもたちに大人気のシリーズ『アンパンマン』の生みの親として知られ、長きにわたって愛された、やなせたかし氏。氏の活動は『アンパンマン』だけでなく、キャラクターデザインやコピーライター・作詞など多岐にわたっている。
今回は『アンパンマン』以外のやなせ氏の活動を振り返りたい。あまりにも我々の生活に根づいた身近な存在だったことに驚くはずだ。
まずは、百貨店・三越の包装紙「華ひらく」。これは1950年に画家の猪熊弦一郎氏がデザインしたもので、当時三越宣伝部の社員だったやなせ氏が「mitsukoshi」の筆記体をレタリングして書き入れたものだという。70年以上にわたって今も三越のシンボルとして愛されるこの包装紙にやなせ氏が関わっていたことを知る人はあまり多くはないだろう。
また、『アンパンマン』以外にもやなせ氏の手がけるアニメがヒットしている。ライオンのブルブルと彼を育てた犬のムクムクの、人間の都合で引き離されてしまった2匹の動物の親子の絆を描いた『やさしいライオン』はその代表だ。これは1969年に刊行された絵本で、アニメーション映画が1970年に公開された。
この映画は前年に手塚治虫氏が製作総指揮をとっていた映画『千夜一夜物語』に貢献したやなせ氏に、手塚氏がお礼として製作したもの。悲しくもあたたかなストーリーは今でも愛されている。
『ニャニがニャンだー ニャンダーかめん』(原作ではウサギを主人公とした「ピョンピョンおたすけかめん」というタイトルだった)を知っている人も多いだろう。2000年から2001年までアニメ放送されていた作品で、弱虫でドジなネコの男の子・ニャーゴが助けを求められると正体不明の「ニャンダーかめん」に変身して人助けをする物語。どことなく『アンパンマン』にも通ずる、正義の味方の物語だ。なお、原作の世界線は『アンパンマン』と地続きだという。
■気づけば目にしていたキャラクターたち
またやなせ氏は、作詞家としても多くの作品を遺している。「アンパンマンのマーチ」「生きてるパンをつくろう」「サンサンたいそう」など『それいけ! アンパンマン』に登場する関連楽曲のほとんどをやなせ氏が作詞を手がけている。また1961年に作詞した「手のひらを太陽に」はNHK『みんなのうた』や教科書に載るほどのポピュラーな曲となっている。
最後に、やなせ氏は全国で見かけることができるさまざまなキャラクターデザインも行っていた。
有名企業の商品としては、ミレービスケットのマスコットキャラクター「ミレーちゃん」や、新宿中村屋の中華まんをモチーフとしたキャラクター「ニックとアン」などがその例だ。
また日本全国でやなせ氏の作品に出会えることも多く、長崎県佐世保市の佐世保バーガーのイメージキャラクター「佐世保バーガーボーイ」や宮城県仙台市のずんだ餅のキャラクター「ずんだ&もちこ」など、ご当地に関するイラストを旅先で見たことがあるという人も多いだろう。いずれもひと目見ただけでやなせ氏作と分かるタッチで、見つけると嬉しくなってしまう。
多くのキャラクターデザインを手がけ、我々の生活に密着していたやなせ氏だったが、晩年は無償で仕事を引き受けていたことも多かったという。氏の生きざまこそが、人に施し与える、アンパンマンそのものだったのではないだろうか。