「鎮魂歌」「前奏曲」「協奏曲」…音楽や楽器を習ったこともないのに、これらの漢字を“カタカナ”で読めてしまうという人は多いのではないだろうか。それはこうしたクラシックの音楽用語が、漫画やアニメのタイトルとして頻繁に使用されているためだろう。漢字で書いても、口に出したときの響きもカッコいい、心くすぐられるこれらの音楽用語。いったいどんな経験をきっかけにこれらの用語が読めるようになったのだろうか。
まずは「鎮魂歌(ちんこんか)」に「鎮魂曲(ちんこんきょく)」。死者の霊をなぐさめるために作られた詩歌で、「レクイエム」と読むことができる。
漫画やアニメでも多用されることが多く知名度も高い「鎮魂歌」という単語が使われている作品の中でも有名なのは、2006年に公開された劇場版『名探偵コナン』10周年記念映画『劇場版 名探偵コナン 探偵たちの鎮魂歌(レクイエム)』。これはレギュラーメンバーがほぼ登場するオールスター作品のような位置づけとなっている。また漫画『HUNTER×HUNTER』では幻影旅団編でのクロロのセリフ「オレ達から貴方への鎮魂曲です」の箇所に「レクイエム」とルビが振られている。これら作品から自然とその読み方を覚えたという読者は多いのではないだろうか。
続いては「協奏曲(きょうそうきょく)」。「コンツェルト」と読むことができ、独奏楽器とオーケストラにより演奏される楽曲を指す。有名なのは小栗旬主演でドラマ化もされた『信長協奏曲(のぶながコンツェルト)』だろう。同作は高校生のサブローが戦国時代にタイムスリップし、自身と外見が瓜二つだった織田信長に頼まれ彼になり変わり、天下統一を目指すというストーリーだ。
同作は音楽に関連する内容ではないものの、信長が2人ということでついたのであろう「信長協奏曲」というタイトルは、同作の世界観をうまく表している。
また漢字表記ではないが、マニアックな音楽用語を広めた例としては、ドラマでも人気となった二ノ宮知子氏の漫画『のだめカンタービレ』もそうだ。「カンタービレ」はイタリア語で「歌うように、表情豊かに」という意味の発想記号で、クラシック音楽をテーマとする本作品と個性豊かでコミカルな登場人物たちにぴったりのタイトル。「カンタービレ」という言葉の、聴き慣れないながらも耳なじみがよく、一度聞いたら忘れられないところも同作の人気に火をつけた理由の1つになっているのかもしれない。
また音楽用語が登場するのは作品のタイトルだけにとどまらない。許斐剛氏による漫画『テニスの王子様』および『新テニスの王子様』に登場する氷帝学園のキャプテン・跡部景吾の技名には「破滅への輪舞曲(ロンド)」「失意への遁走曲(フーガ)」「慟哭への舞曲(ジーク)」など音楽用語を用いたものが多く登場する。
また彼は「革命への前奏曲(プレリュード)」というキャラクターソングも発売している。御曹司である彼の品の良さがうかがえるネーミングセンスだ。
このほかにも、漫画タイトルの一部として使われていた音楽用語はたくさんある。「円舞曲(ワルツ)」「狂詩曲(ラプソディ)」「幻想曲(ファンタジア)」「夜想曲(ノクターン)」など、これらの音楽用語を習ってもいないのにカタカナで読めてしまうという人は多いだろう。
なお、漫画界の巨匠である手塚治虫氏も実はこれまでに短期間連載ながら音楽をテーマにした作品を多く手がけている。『雨のコンダクター』『虹のプレリュード』『てんてけマーチ』などを発表しており、クラシック好きだった手塚氏の作品から音楽的知識を増やした読者も多いのではないだろうか。小難しく感じるであろう音楽も、意外にもずっと私たちにとって身近な存在だったのだ。