獰猛さは皆無…!? 『まんが日本昔ばなし』に登場する優しくまぬけな熊たちのエピソードの画像
アニメ『まんが日本昔ばなし』Blu-ray第1巻 (c)2023 愛企画センター

 1975年に放送が開始され、日本各地に伝わる昔ばなしをアニメ化した『まんが日本昔ばなし』。本作には多くの動物が登場するが、なかでも人間と力比べをしたり、いざというときに助けてくれたりするのが「熊」だ。

 熊が出てくる昔ばなしといえば『金太郎』がある。力自慢の金太郎が熊と相撲を取り、あっけなく熊を倒すエピソードは有名だろう。童謡では「熊にまたがり お馬のけいこ」と、金太郎が熊を飼いならす様子を描いた歌詞まである。

 実際の熊は、多くの人を襲う恐ろしい存在である。しかし、本作に出てくる熊たちのエピソードは、いずれも恐ろしさとは少々かけ離れているのが特徴的だ。ここでは、優しくてちょっとマヌケなイメージが見える熊たちの昔ばなしを紹介していく。

■熊がこんなに優しく従順だったらいいのに…『かぐまのちから石』

『かぐまのちから石』は、栃木県の小木須に伝わる昔ばなしだ。

 その昔、優しい木こりのお爺さんと犬のアカは足に矢が刺さった熊を見つけ、一生懸命に手当てをした。そのおかげで熊は元気を取り戻し、お爺さんの薪運びを手伝うようになる。

 何年か経ち、お爺さんは寝込むように。2匹は一生懸命看病するも、お爺さんは亡くなってしまう。それを悲しんだアカもあとを追うように亡くなってしまい、ひとりぼっちになってしまった熊は山へ去っていった。

 のちに、坂の登り口に熊に似た大きな石が現れた。その石に荷車のあと押しをお願いすると、坂を楽に登ることができるという逸話ができた。その石は現在でも「かぐまの力石」と呼ばれているそうだ。

 お爺さんを慕う熊を描いた切ないこのストーリー。普通なら獰猛な熊が、お爺さんや犬のアカの言うことに従順であり、荷車を力強く押すことで徐々に村の人間からも親しまれていく。

 この昔ばなしから、人々の心にある「熊もこういった優しい存在であれば……」という願いが透けて見えるようだ。両者がうまく共存していくことへの望みが描かれている作品ではないかと思う。

■マタギの狩猟から誕生した昔ばなし!?『うさぎとくま』

『うさぎとくま』の話は、少々『カチカチ山』に似ている。

 昔、怠け者のうさぎはマヌケな熊の胆を取り出し、それを売って生活しようと考えていた。うさぎは熊を騙して小屋を作らせ、それに火をつけて熊に火傷をさせる。さらにその火傷に効く薬といって唐辛子を山芋に混ぜたものに貼り、さらにダメージを与えた。

 その後もうさぎに騙され続ける熊。ある日、うさぎに仕組まれ、とうとう牛に蹴飛ばされ倒れてしまう。その隙に熊の胆を取ろうとしたうさぎだが、目覚めた熊によって木に三日三晩耳を縛り付けられ、そのせいで耳が長くなり、ずっと泣いていたため目が赤くなったというエピソードだ。ちなみに、牛に蹴飛ばされたときのショックで熊の目は小さくなってしまった……という小話つきだ。

『カチカチ山』はずるがしこいタヌキをうさぎがとっちめる話だが、『うさぎとくま』はマヌケな熊がずるがしこいうさぎによって痛い目に遭うというもの。

 最終的にうさぎがギャフンと言う結果となっているが、熊の胆を狙ったり、うさぎが木に耳を縛り付けられる様子などは、昔はよく行われていたであろうマタギによる狩りを連想させる。

 当時は体の大きな熊のほうがマヌケで、すばしっこいうさぎのほうが頭がいいというイメージがあったのかもしれない。怠け者がずる賢い行動をしたところで、最終的には自業自得となる教訓が得られるエピソードだった。

■十二支に入っていない動物をちょっと小バカにした話?『熊と狐』

 最後に紹介する『熊と狐』も、ちょっとまぬけな熊がずるがしこい狐に騙されるエピソードだ。

 山に住む狐は熊に畑を一緒に作ろうと持ちかけ、力仕事を熊にやらせ、大根が育つとうまく言いくるめて上下で取りぶんを決め、熊は地面の上にできた大根の葉だけを、狐は下の大根部分をもらい満足する。

 しかし、納得のいかない熊は、今度は逆の条件で再び畑を作ることに。しかし次にできたのは苺で、狐は上にできた苺を収穫し、熊には根っこばかりが残された。

 こんな調子で熊は狐に騙されてばかり。たっぷりのはちみつがあるからと狐に誘われた際には、熊は蜂に刺され寝込み、肝心のはちみつは狐に奪われてしまう。

 熊は心配して見舞いに来たみみずくから知恵をもらい、馬の肉を食べて狐を誘い、“馬は後ろ足にかみつくと死ぬ”と嘘をつく。狐は言われた通り大きな馬にかみつき、蹴飛ばされてどこかへ飛んで行ってしまう、というエピソードだ。

 こちらのアニメのオープニングでは落語が入り、午の刻や子の刻など十二支の説明がされる。十二支は昔から時間や方角を読むのに大切な存在だったが、“これから紹介するのは、なぜか十二支にも入れてもらえなかった狐と熊の話だ”と、ナレーションが入っている。

 昔の人は、十二支に入っていない動物を少々軽視する風潮があったのかもしれない。騙す狐も、騙される熊も「何をやっているんだか」と、少々あきれた雰囲気のなか話が進むのが印象的だ。

 

 今回紹介した3つのエピソードは、いずれも熊が恐ろしい動物ではなく、ちょっとマヌケで騙されやすい性格をしているのが特徴的だ。熊は動物のなかでも体が大きく、普段ののっそりとした動きからそのようなイメージがついたのかもしれない。しかし実際の熊は『まんが日本昔ばなし』のように、優しくまぬけではないのでご用心を……。